第6話
「まぁ、彼女は異能力者なのかというのは調べないとわからないので今は置いておきましょう」
「これ、知らないといえども御堂さんも事件に巻き込まれたということになるんじゃあ!?」
「ちっち。高砂少年、いいですか。上げるべきことは公にする。それ以外は言わなければいいんです。それに、伊月室長に全てを言ったところでどの情報を隠して上に上げるのかを考えるのは室長の仕事。私たちは馬鹿正直に室長に話せることを話すだけですからね」
まるで、話せないことは彼女たちは話すことはしないと暗に言っているようだ。
話せないこと、となると自身の経歴なのかもしくは持ち合わせている異能力についてなのか。その両方なのかは理玖にはわかることはなかった。馨は、そっと自席に戻ってから折り掛けの折り紙をそっと端に寄せてからパソコンと向き合って仕事をし始める。否、それっぽくキーボードを打ち込んでいるだけであり彼女が仕事をしているのかは隣に移動しないとわからない。
「百瀬監視官にも伝えておかないとね。そろそろ戻ってくるだろうし、彼女には伝えておくよ。馨くんたちは、そうだね」
「伊月室長に帰ってくるように伝えたので、多分三十分くらいしたら戻ってくると思いますよ。それまでの間に、今回のことをわかる範囲でまとめてみましょう。ふふ、ホワイトボードを使ってまとめるだなんてまるで刑事ドラマみたいですね」
この場所は刑事課ではないが、一応警察関係者だろうというツッコミをそっと内心で止める理玖。
彼はそのまま自席に戻り自身のモニターを見つめる。その間に馨は、機嫌がいいのか楽しそうにホワイトボードとマーカーの準備をしている。この執務室は、広くもなく狭くもない。言って仕舞えば、ちょうどいい広さということなのだ。それなりに開けた場所までホワイトボードを移動させてきた馨は、そっとマーカーを手にしてまるで誰かを指名するような素振りを見せて声を出す。
「内海少女!!」
「うぇ!? う、うち!?」
いきなり指名されたのは、静かに仕事をしていたショートボブの女性。馨に、内海少女と呼ばれた女性、
朱夏は、そっと馨からマーカーを受け取りキャップを取ってはホワイトボードに手慣れた様子で書いていく。
「朱夏ちゃんの字は綺麗だから、見やすくていいね」
「本当に羽風は、内海監視官限定の全肯定ボットだよね。まぁ、それだけ仲がいいってことなのかもしれないけど。さて、じゃあ僕は映像の投影係をしようかな。内海監視官が書記ならば、馨くんは司会か。羽風と高砂監視官は気になるところがあったら、質問をするといいよ。ああ、質問の質は気にしないからくだらないことでも問題ない。いい感じみ見せているけど、やっていることはブレインストリーミングのようなものだから」
そっと業務パソコンを抱えて、近くのモニターに繋げる莉音。
事前にそう言われて、どこか肩の荷が落ちたのか理玖は「ありがとうございます」と少しだけ苦笑しながらお礼を告げて椅子から腰を上げてホワイトボード近くまでやってくる。
「あ、その前に。内海少女、彼が高砂少年です」
「初めまして。馨から話は聞いているよ、まぁチャットでだけど。うちは、内海朱夏。好きなように呼んでくれていいからね。多分、うちが一番年齢近いと思うから」
「は、はい。よろしくお願いします……」
にへら、と少しだけ力なく笑ってからホワイトボードに軽く枠組みなどを書いている。ただの枠組みだけなのに、何故か綺麗に分かりやすく見えてしまったのか、理玖は苦笑をしてそっとパソコンの視界に入れて資料を見直す。
「じゃあ、アイデアだしを始めましょう。まずは、何も分かってなさそうな高砂少年から」
びし、と音がつくのではないかというほどに勢いよく理玖の名だしする馨。馨に指名された理玖は、目を見開きながらも肩をすくめては少しだけ困ったように眉を下げて緊張気味に口を開く。
「えっと……。まずは、今回出てきた死体が指名手配犯だったんですよね」
「はい。まずはそれですね。じゃあ、さっきは指名しちゃいましたから各々で言い合いましょうか」
理玖が話したことを合図として、少し遠くに居た羽風も近くに移動してくる。
本格的にとりあえず意見を出そう、ということなのだろう。ある程度数名で意見を聞いては、朱夏が素早くかつ丁寧に分かりやすく簡潔に記載されていく。箇条書きで書かれたそれらは、意見が出てきたこともあり多く出てくる。彼らが現状を出しあって数分、もしくは数時間経ったころ合いに扉が開いて執務室に人が入ってくる。
「随分と白熱しているようだな」
「室長だぁ。随分と遅かった、ね?」
「そうでもないと思うんだが……。羽風は割とせっかちなところがあるから、まぁさておき。……ある程度のことは藍から聞いている。それにしても、朱夏が書記か。なんとも珍しい組み合わせだな」
理玖は、少しだけ違和感を感じて首をかしげる。彼の見てきた中であるが、伊月は基本的に異能官を名前で呼び監視官は苗字で呼んでいる場合が多い。なのにも関わらず、今回は監視官である二人を名前で呼んでいる。そっと傾げていた首を戻しては視線を伊月へと向ける。彼は理玖からの視線に気づいては、少しだけ困ったように眉を下げては笑って椅子を用意して近くに座り文字が書かれているホワイトボードへと視線を滑らせる。それは、一緒に入って来た藍も同様だった。
馨は、そっと見やすいようにホワイトボードから離れては理玖の隣へと戻ってくる。
「その疑問、お伝えしましょう」
「へ……?」
「伊月室長は、プライベートと業務時間をはっきりとしているんです。異能官である私たちは基本名前で呼ばれているんですけど、監視官は苗字で呼んでいるんですね。ですがそれは業務時間だけの話で、名前で呼ぶということは。伊月室長は業務を終えてここに居るということですね」
「サービス残業!?」
「いや、それだと苗字なので……。普通に帰ろうとしていたけど、面白い話をしているから顔出して参加するかっていうノリなのでしょうね」
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