第81話 作戦開始
幾何学的な円形に焼き払われた山腹に、ゼルトナー号は音もなく着陸した。
ゼルトナー号の側面がパカっと開き、中からT字の取っ手がついたタイヤのないバイクのような形状の乗り物が次々と出てくる。これが、これから俺たちが乗るモービルというやつだろう。
「にゃー。みんな、お待たせにゃー。勇者様一行を連れて来たにゃー」
マオが明後日の方向に向かって手を振る。
俺には、何もいるように見えないのだが、きっと獣人であるマオは人間の俺よりも視力も聴力も良いに違いない。
やがて、闇の奥に双眸がきらりと光ったかと思うと、カニスの仲間らしき獣人が、木々の隙間から姿を現す。
「みんな女性ですね」
由比がその顔を見て、ぽつりと呟く。
「わふうー。カニスたちの仲間の男の人はー。ほとんど、プドロティスに捕まるか、殺されてしまったのでー。仕方ないんですよー。残った貴重な男性はー。こんな危険なミッションにつける訳にはいきませんしねー」
古今東西、異世界問わず、やっぱり外敵から女を守るのは男の役目と相場が決まっているらしい。
「にゃー。もうちょっと早く、マオたちが精霊幻燈は現実でも使えるって気づいていればにゃー。こんなことにはならなかったんだけどにゃー」
マオが耳を伏せ、後悔をにじませる。
「……亡くなった方はもうどうすることもできませんが、生き残った方々にはまだ希望があります。頑張りましょう」
礫ちゃんがマオを慰めるように囁く。
「レキの言う通りにゃ。それにゃ、予定通り、先にマオとカニスが、ヤマトとナナリを連れてプドロティスを陽動するってことでいいにゃ?」
マオはそう言ってモービルの一つにまたがると、俺と七里の顔を交互に見て確認する。
「うん」
「それでお願い」
俺と七里が頷く。
「おっけーにゃ。それにゃ、残りの救出班の四人には、マオの舎弟の中でも、特に優秀なのをつけてやるからにゃー。安心するがいいにゃ」
マオがそう人懐っこい笑みを浮かべて頷く。
「ではー。どちらでもー。お好きな方にお乗りくださいー」
同じくモービルにまたがったカニスが、おっとりとした口調で促す。
「じゃあ、俺はカニスの方に乗るよ。七里はマオの方に乗ってくれ」
さりげない調子で、俺は七里をマオの方に誘導した。
「でも、お義兄ちゃん。マオさんの方が操縦が上手いって言ってたよ」
「いいんだよ。お前の方が『案山子』のスキルを持っている分だけ、ミッションを実行しやすいんだから」
「……わかった。お義兄ちゃんがそう言うなら、それでいい」
七里が静かに頷いて、マオのモービルの後ろにまたがる。
「では、カニスさん。よろしくお願いします」
俺は軽く頭を下げて、カニスさんのモービルの後ろに座る。
「わふふー」
カニスが忍び笑いを漏らす。
「何かおかしいですか?」
「いえー。妹さん想いで素晴らしいなーって、思っただけですよー」
カニスが笑顔を浮かべたままで首を振る。
準備を終えた俺たちに、仲間たちが近づいてきた。
「よろしくお願いします。何かあった際には、絶対にご自身の命を優先してください」
礫ちゃんが深く頭を下げて言う。
「うん。礫ちゃんも無理しないでね」
しないでね、と言ってもするだろうが、それでもやっぱり言わずにはいられない。
「……。絶対に生きて戻ってきて」
瀬成は言葉少なに瞳を潤ませ、俺の手を握った。
「ああ」
俺もただ二文字だけを返して頷く。
由比が瀬成と入れ替わりに、俺の側に立つ。
「兄さんが死んだら。私も死にますから。それだけ、覚えておいてくださいね」
瀬成とは対照的に由比は笑顔だった。
「重いな」
俺は苦笑する。
もちろん、今の言葉は俺の本心ではない。由比の重い言葉は、俺の気持ちを軽くするためのものだと、俺はわかってる。由比のことも、ここまでわかるようになった。
「軽くして、天国にでも飛んで行かれたら困りますから」
由比はそう言って、俺を軽く抱きしめ、そして離れて行く。
次にやってきたのは、石上だった。
「しっかり頼むぜアミーゴ。お前の葬式で経を読むのはまっぴらごめんだ」
「俺の葬式は樹木葬って決めてるから大丈夫……救出班のみんなを頼むよ」
「任せろ」
俺はそうブラックジョークと交わし合い、石上と拳を合わせた。
俺と別れの挨拶を終えた面々が、次々と隣の七里に声をかけに向かう。
「ではー。そろそろー。行きましょうかー」
それも全て終わった頃、カニスがそう提案した。
「ああ行こう」
俺は答える。
皆が頷く。
「じゃ、プドロティスがいる二つ先の山にレッツゴーにゃ! 今こそ決戦の時にゃ!」
マオの掛け声と共に、二つのモービルが宙に浮く。
こうして俺たちの作戦が始まった。
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