第38話 ダンジョン突入
やがて、俺たちは隊伍を組んで、ダンジョンの入り口である坑道に向けて出発する。
前と後ろに高ランク冒険者を配置し、真ん中にいる俺たちは守られながら進む形式だ。
前が30名 真ん中の俺たちが30名 後衛のロックさんたちのグループが15名。結構な人数だ。
ごてごてしい装備さえなければ、ただの観光の一行に見えなくもないかもしれない。
道中、特に危険もなく、俺たちは目的地に到着した。
途中、一回モンスターに遭遇したらしいが、俺たちが気づく間もなく倒されていたので、俺たちにとってはなかったも同然だった。
「これは……すごいな」
俺は目の前の光景に目を見開く。眼前に現れたのは、いかにもな坑道だった。アーチ状の空洞の奥は不気味に静まりかえっていて、どこまで続いているか定かではない深淵の闇が、冒険者を拒むように漏れ出している。
「本当に、坑道だね! ダンジョンだね!」
七里が感動した面持ちで、槍を掲げた。鉱山という性質上、剣を振り回すような広さがないことが想定されたので、俺が持ち替えさせたのだ。
「回復は任せてくださいね」
由比が俺の隣に並んで杖をくるくる回して言う。
「……」
腰越は無言で腰に挿した剣の固定具合を確認していた。侍みたいな大小の脇差が、腰越の腰元で鞘を垂れている。一応、腰越にも『槍の方がいいんじゃないか?』と提案したが、『ウチのことなめてんの?』とキレ気味に返されたので、俺はすごすご引き下がった。まあ、俺よりも腰越の方が武器の扱いには詳しそうだったので、余計なお世話ということだろう。
先行者が坑道へと吸い込まれていく。十分くらい待たされた後に、俺たち、運び屋のグループも洞窟へと踏み入れた。
ほこりっぽい土の臭いが俺たちを包み込む。
蛍の光を強くしたようなライトグリーンの光が、俺たちの懐から漏れる。支給アイテムの『魔法のランタン』だ。暗いダンジョンを検索する際には必須の灯りである。ランタンとはいっても勝手に光ってくれるので、手が塞がる心配はない。
気温は夏にしてはひんやりとして心地良いくらいだ。
天井も思ったよりは高かった。俺の身長が大体170cmくらいであるのに頭上に余裕があるところを見ると、3mくらいの高さはあるらしい。道の幅は狭いが、それでも鎧を着た人間二人がすれ違えるくらいの広さはある。
俺たちが位置しているのは、クエストを受諾したのがギリギリだったのか、隊伍の後半だ。この位置がいいのか悪いのかはよくわからないが、後ろにロックさんたちが詰めているので安心感はある。ちなみに、鴨居さんは運び屋の先頭に立って、先行者と運び屋の仲立ちをしているようだ。
「……やっぱり、機能は使えないか」
俺は、コマンドを確認して呟いた。
ダンジョンに侵入した際の制限は、やはりゲーム時代と変わらない。常識的に考えてダンジョンに入っていたら無理な行為――すなわち、オークションとか、外部のユーザーとのメッセージのやりとりとかのコマンドは実行不可能になっている。
「デバイスも使えませんね」
「うん」
由比の言葉に頷いて、腕時計型のデバイスをいじる。
やっぱり、回線は使えない。これも当然だ。いくら、人工衛星で全世界がネットでつながれた時代であるとはいっても、さすがに閉鎖空間である坑道ではオフラインにならざるを得ない。今や、俺のデバイスは、時間の確認やちょっとした計算ができるだけの子供のおもちゃになり果ててしまった。
「やっぱり、ちょっと不安だね」
七里の呟きが、足音に紛れる。
ネットにつながっているのが当たり前の俺たちの世代にとって、デバイスが使えないことはそれだけで恐怖の種だ。
「あんたら、デバイスの奴隷じゃないんだから、もっとシャキっとしなよ!」
腰越が一喝する。
「そうだな。大体、いくらネットがつながっていたって、いざっていう時にネットの大先生に質問している時間はないし」
俺は腰越に同意して、軽口を叩く。
由比と七里が忍び笑いを漏らした。
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