第22話 雨降って地固まる?
「どうして! どうして、私が妹じゃないんですか! ただ、偶然、親同士が結婚したっていうだけで、兄妹になれるなんて! ずるいです! 絶対にチートです。うあああああああん」
なんとか即席の治療を終えた俺を待っていたのは、由比ちゃんの人目を憚らない号泣だった。
周りのパーティは徐々に作業を終え、こちらに生暖かい視線を送りながら、帰宅の途についている。どうやら、痴話喧嘩だとでも思われているらしい。
さっきまでは必死で羞恥心など感じている暇はなかったが、よく考えてみれば真面目にミッションもせずに仲間内で戦い合っている俺たちは、傍目にはさぞ滑稽に映ったことだろう。
「……そう言うけど、私とお兄ちゃんだって、はじめは他人だったんだよ。親同士が好き合っただけで、私たちは初対面だったんだから、偶然に兄妹になった訳じゃない。『兄妹になろう』としたから、『兄妹になれた』の。ね、お兄ちゃん?」
七里が慰めるように由比ちゃんの肩に手を置いて言う。
「ああ……」
俺は遠く広がる水平線を見遣り、目を細める。
七里はこんな性格だし、俺も昔は兄だなんて自覚はなくて、当時は、それはもう色々とあった。実は俺の裁縫の趣味にも七里との出会いが大いに関係しているのだが、今は悠長に自分語りをしている余裕はないか。
「それでも、七里ちゃんにはチャンスがあったじゃないですか……私には、私には何もないんです!」
由比ちゃんのすすり泣きが波間に吸い込まれていく。
そんな彼女の背中を七里がそっと抱きしめる。
「……じゃあ、由比もお兄ちゃんの妹に『なる』?」
「七里ちゃん……?」
由比ちゃんがきょとんとした顔で七里の顔を見遣る。
おいちょっと待て、何を言ってるんだうちの馬鹿七里は。
「私も一から、お兄ちゃんの義妹になったんだから、由比も徐々にお兄ちゃんの義妹になっていけばいいよ。せっかく一緒に住んでるんだし。ね? お兄ちゃん。いいでしょ?」
「お兄さん……」
七里が『当然でしょ?』とでも言わんばかり微笑む。由比ちゃんがこちらに縋るような視線を向けてきた。
いや、七里はもっともらしく言っているが、その理屈はおかしい。絶対におかしい。
しかし、今、捨てられた子猫をも凌駕する由比ちゃんの頼りなさっぷりを見ていると、七里の提案を無碍にするような鬼畜な行いに、俺は踏み込むことはできなかった。
「まあ……お友達からでいいなら……」
俺は苦し紛れに告白された乙女のような返答を返す。
「ほら! お兄ちゃんも良いって! あ、でもそしたら、由比は私より誕生日が後なんだから、私は由比のお姉さんだね!」
七里がブルドーザー並の強引さで話を推し進める。
「で、でも、いいの? 私、七里ちゃんにいっぱいひどいこと言ったよ? そんな私を許してくれるの?」
「うん。私、人見知りだよ? その人の気持ちが本当かどうかにはすごく敏感なの。確かに私に近づいたのはお兄ちゃんのためだったかもしれないけど、その後の友情は本物だと思ってる。違う?」
「ううん! 私も本当は嬉しかった! 七里ちゃんは普通の女の子みたいな腹黒いところがなかったから。素直で、嘘がなかったから! 私は初めて、本当に心を開ける友達ができたって思ったの。でも、同時に嫉妬してた。あんな素敵なお兄さんに甘えられる七里ちゃんが羨ましかったの。七里ちゃん、大好き!」
由比ちゃんが涙をこぼしながら、七里を抱きしめ返した。
「よしよし。いいんだよ。私、お姉ちゃんだもん。妹ちゃんのお痛くらい笑って許してあげる」
七里が由比ちゃんの背中をポンポンしながら、鼻をひくひく膨らませた。つーか、めっちゃドヤ顔なんですけど。
「うわああああん。ありがとう、お姉ちゃああああああん」
由比ちゃんが七里の胸に顔を埋めて、鳴き声をあげる。小柄の七里に、モデルみたいな体型の由比ちゃんがすがりつくその光景は何ともシュールだった。
そんな中、七里が顎をしゃくり、『空気読め』とでも言うようにこちらに流し目を送ってくる。
「よーし、じゃあ、
俺はやけくそ気味に芝居がかった口調でそう呼びかけ、七里と由比ちゃんの肩に手を置く。
「「はい! お兄ちゃん(さん)」」
七里が左腕に、由比ちゃんが右腕に、それぞれ飛びついてくる。改めて二人のおっぱい格差を俺は改めて実感した。
こうして、俺に――
義妹が一人増えました!
Quest failed
討伐モンスター:毒毒うみうし(1)
イザナミ(1)
戦利品:義妹(1)
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