第19話 告白
うん。一瞬考えたが、いくらアレな俺の親父でも、そこまで倫理がぶっとんでいる訳ではない。それは確信できた。
「は? なに言ってんの? 馬鹿じゃない?」
七里が呆れたように吐き捨てた。
「七里ちゃんなんかよりも私の方が、よっぽど大和さんの義妹にふさわしいもん! 血が繋がってないんだから、別にいいでしょ!」
幼児退行したみたいな口調の由比ちゃんが目を見開いて叫んだ。
「は? 何、由比、こんな奴の妹になりたいの? ずっと編み物して引きこもっているだけの根暗だよ」
「いや。家事とかもしてるから……」
ささやかな俺の抗議は二人に完全に無視された。
「うるさい! 大和さんの悪口は許さない! 彼は私にとって、理想の兄なの! 優しくて、でも頼りがいがあって、ちょっぴりうだつがあがらない、父性と母性を兼ね備えた理想的な存在なんだから」
「だったら、どうするって訳? どんなに喚いても、お義兄ちゃんの義妹は私なんだよ」
七里が勝ち誇ったように胸を張る。
「そう。だったら、私は――七里ちゃんを倒す! そして、七里ちゃんの替わりに私が本当の妹になってあげる!」
由比ちゃんが狂気に満ちた目でそう宣言し、七里に掴みかかった。
「由比、正気!? 危ないって!」
七里は右手に持っていた剣を慌てて柄に挿し、由比ちゃんを押し返そうとする。
「本気で戦うつもりはないの?」
由比ちゃんがきつく目を細める。
「ないよ……私たち奇跡的に出会った親友じゃん」
七里は由比ちゃんをまっすぐに正面から見つめた。
「友達? ……まさか、七里ちゃん。本気で信じてたの。ボドウィル山での私たちの出会いが、偶然だって」
由比ちゃんが怪しげに口元を歪める。
「由比。何言ってるの? だって、困ってる私を由比が回復してくれて……」
「狙ってたんだよ。コミュ障の七里ちゃんには、すんなり仲良くなれるような演出が必要だと思って、後をつけてたの」
「……別にいいよ。それって、結局、私と仲良くなりたかってことでしょ」
「うん。そうだよ。あくまで、お兄さんと仲良くするための橋頭堡としてだけどね。七里ちゃんはおまけだよ」
「……嘘」
七里が由比ちゃんの言葉を受け入れるの拒絶するかのように首を振る。
「本当だよ。だって、そうでもしないとお兄さんに近づきようがないんだから仕方ないよね? 同じ学校だっていっても、学年も校舎も別だし、真面目なお兄さんは学校が終わったら、すぐ家に帰っちゃうし。ゲームだって、いつもログインしている訳じゃないんだから」
「じゃあ、由比は今までの私たちの思い出は全部嘘だっていうの? 一緒に狩りしたり、勉強したり、リアルでもゲームでも私たちはずっと一緒だったじゃん!」
七里が今にも泣き出しそうに顔を歪めた。
「嘘だよ。どう? これでも私と戦わないつもり?」
由比ちゃんが七里の肩を揺さぶる。
「なめくさりやがってえええ、いいよ、戦ってあげる! 戦士の私に、ヒーラーの由比、勝敗は目に見えてるけどね! 骨くらいは折れると思うけど、文句言わないでよ」
七里が、虚空から出現させた荒く削られた棍棒を手にする。
「おい! 喧嘩は後で、家でやれ! 今はクエスト中だぞ!」
俺は二人の間に割って入ろうとする。
「お義兄ちゃんは黙ってて! これは私と由比の戦いなの!」
由比が棍棒を振り回して牽制し、俺を蚊帳の外にする。
「七里ちゃん……どういうつもり? 何で剣を使わないの? 私を馬鹿にしてるの?」
七里から一歩距離をとった由比ちゃんが、肩をわななかせる。
「……だって、由比の武器は杖だし、こうしないと不公平でしょ」
「甘いね。……私から喧嘩をふっかけたんだよ? 何の準備もしてないと思った?」
『ギルドメンバー:藤沢由比がログアウトしました』
その無機質なシステムメッセージと、由比ちゃんの不敵な笑みをを見た瞬間、俺は全てを理解した。
「複アカか!」
俺は思わず叫んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます