第47話 活路

「お、お義兄ちゃん! 私たちも他のチームみたいに私たちも少しでも敵を減らそうよ!」


 状況を察した他の人間たちは、荷物持ちも戦闘員も関係なく、まだ攻撃が通りやすい雑魚のゴーレムを片付けにかかっている。確かに、それがぱっと思いつく、最善手だ。いや、むしろそれしかできないと言った方がいいだろうか。


「だめだ。いくら雑魚を削っても、時間内にエルドラドゴーレムを倒せなければ、ロックさんも俺たちも終わりだ。何とか、ボスキャラを攻略する方法を考え出さないといけない。みんな何かアイデアはないか?」


 仮に雑魚を全部倒したとしても、一定時間経てばボスキャラが簡単に復活させてしまう。そもそも、その前に、ロックさんがエルドラドゴーレムを引きつけることができなくなれば、ものの数分で俺たちは全滅してしまうだろう。


 俺たちのために命をかけてくれたロックさんを死なせる訳にはいかない。


 だからこそ、ここは冷静になって解決の糸口を見つけないと……。


「そうですね……劣った戦力しか持たないギルドが、数を頼みに戦う場合の王道といえば、弱点破壊でしょうか。今回の場合でいえば頭ですね。でも……だめですね。全員で一か所に攻撃を飽和させるには、ギルドメンバーの連携と練度が必須ですし、そもそもが討伐に時間をかけることを前提とした作戦ですから、三分じゃとても」


 由比が考え込むように顎に人差し指を当てながら言葉を繰る。


 確かに現状では全員の攻撃を合わせるのはとても無理だし、いくらなんでも敵が強過ぎる。だけど、全体ではなく、一部の破壊を目指すという方向性は正しいように思えた。


「あー、マジでむかつく! あんなん動かなければただの刀の材料なのに!」


 腰越が叫ぶ。


(材料……そういう見方もあるな――まてよ。もしかして!)


 その瞬間、俺の脳裏に電流が走った。そう、もう今ここにある現実はゲーム時代とは違うのだ。ならば――。


「腰越! 今すぐステータスメニューを開け!」


「は? いきなり何言ってんの?」


「いいから!」


「わ、わかった」

 腰越が戸惑い気味に虚空に指を這わせた。


「そしたら、『製錬』のスキルを確認してくれ!」

 俺はもどかしさをこらえながら言う。


「普通にあるけど?」

 腰越が首を傾げる。まだ、ゲームのシステムに触れてから日の浅い彼女には、俺の言わんとすることが分からないらしい。


「もっとよく見ろ! 『製錬』の枠が、パッシブスキルからアクティブスキルに移動してないか?」


「あ、うん。そういえば、移動してるね」


「兄さん! と、いうことは!」


 察しのいい由比がはっと顔を上げた。


「そうだ。……エルドラドゴーレムは『製錬』できる!」


「で、でも、どうやって『製錬』するの? 高炉がなきゃできないじゃん!」


「ああ、そうだったな! 七里! 腰越は『携帯用高炉』のアイテムを持ってない! 他の運び屋から借りて来てくれ!」


 俺は頭を掻きむしって叫んだ。


「わ、わかった!」


 七里が雑魚ゴーレムの間を縫って走る。


「なるほど。『製錬』ですか。ですが、兄さん。ゴーレムは無機物ですから核を破壊しないととどめをさせませんよ」


「大丈夫。それなら――『構造把握』!」


 エルドラドゴーレムの全身を舐めるように見渡す。


 ある種の芸術とさえ言っても過言でない金属繊維の幾何学模様が目に焼き付いた。


 その迷路の終点、全ての戦意が行きつく先にある、バスケットボールほどの球体。


 それは、首と肩のつなぎ目に埋まっていた。


「首だ! コアは首の下にある!」

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