第6話 クラスメイト

 次の休み時間。


 俺は使った道具の手入れをしていた。


 とはいっても、縫い止めに使用した絡んだ糸を解きほぐす必要があるくらいで、特に損傷はみられない。


「どうやら、改造するとペナルティがつくらしいな」


 どうやら、勝手に糸を増やして投網みたいに『縫い止め』のスキルを使ったことで、一本あたりに割り当てられた効果持続時間が短くなってしまったようだ。あっちをたてればこっちが立たず、といった感じである。それでも、全く役に立たないよりはマシなので、これからも使い勝手のいい『投網方式』は継続するつもりだ。


「……どうでもいいけど。なんで、ウチにそれを話す訳?」


 こちらに視線をくれず、電子端末をいじりながら腰越が言う。


「ああ。これ、お前の取り分だ。受け取って欲しいんだが、カロン・ファンタジアのID教えてくれないか?」


 直接具現化して引き渡してもいいのだが、衛生的にも容量的にもかさばるので、データの方が便利だ。


「いらない……つーか、倒したのあんたじゃん」


「いや、一匹分はお前が助けてくれなかったらやばかったし、正当な報酬だと思うが?」


「あっそ……でも、やっぱいらない。ウチ、ゲームとか嫌いだし」


「いや、でも、しょぼいアイテムでも売れば、小遣いの足しにくらいはなるぞ?」


「嫌いだし!」


 腰越が机の下からさっきのドスを取り出して、鞘をつけたまま机を小突いた。こちらがちびりそうになるほどの、鬼気迫る睨みをきかせてくる。


 こういう姿を見ると、腰越がヤクザの娘だという噂は本当なのではないかという疑念が湧いてくる。本人がこんな感じで、周りとのコミュニケーションを一切謝絶してくるため真偽のほどは明らかではない。


 もっとも、俺は悪い奴ではないと勝手に思い込んでいる。現に今日だって助けてくれたし。


「す、すまん」


 俺は押し問答を切り上げて、すごすごと自分の席に引き下がった。


「よう、アミーゴ、まさか腰越さんにご執心かい?」


「ちょっと礼を言ってきただけだ。つーか、アミーゴは勘弁してくれ。石上。つーか、さっきのクック、お前でも倒せただろ。お前、確か結構レベルのあるモンクだったよな?」


 授業中とは打って変わって元気になったMr 主人公席こと石上が俺に声をかけてくる。野球部でもないのに完全な坊主頭で、首からは髑髏のついたネックレスを下げているというかなり濃いキャラだ。


 ちなみに、『アミーゴ』は俺が編み物が好きということから、石上が考え出したあだ名らしいが、クラスには全く浸透していない。


「いやー、俺は坊主だからな。ゲーム内ならともかく、現実で無益な殺生はできないんだ。すまんな。でも、助かった。はははははは」


 そう宣言し、石上は全く申し訳なくなさそうに哄笑した。見た目の通り、石上は鎌倉でもかなり名のある寺の跡取り息子だ。結構ガチな宗派らしく、弁当にも肉類の類が入っているのは見たことがない。


「くそー、むかつく笑顔だ。根岸さんに頼んで野菜っぽい肉を騙して食わせてやりたい」


「勘弁してくれ、清めの儀式って結構ハードなんだぜー」


 そんな軽口と共に、休み時間は過ぎていく。

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