第12話 外人墓地のスケルトン

「あの、何か様子がおかしくありませんか?」


「ああ、うん。そういえばそうだね」


「向こうから人がやってくるね」


 ゆっくりと外国人墓地に向かって歩き始めた俺たちに逆らうように、向こうからやってきた人とどんどんすれ違う。当たり前といえば当たり前だが、俺たちと同じ方向に向かう人数と比較して明らかに多すぎる。


 違和感を抱えながらももうしばらく行くと、すぐにその理由が判明した。


「ん? なんだあれ。規制線か?」


 遠くに見える黄色い帯に目を細める。その奥には迷彩色の服を着た、自衛隊の関係者らしき人たちが動き回っていた。


「やっぱり何かあったんですかね」


「ああ。モンスター絡みかな?」


 俺は腕に巻いていた携帯デバイスのスイッチを入れようと手を伸ばす。


「……お義兄ちゃん! 外国人墓地でスケルトン発生だって! すごいよ。生スケルトンだよ」


 俺よりも早くデバイスで検索をかけていたらしい七里が叫んだ。


 なるほど。外国人墓地なら火葬ではなく土葬だから白骨もあるだろうし、納得がいく話だ。


「いや、スケルトンの時点で生もクソもないだろ。ま、そういうことなら仕方ないな。さっさと帰るか」


「えー、せっかくだから見たい! 生スケ! 生スケ!」


 さっさと踵を返そうとする俺の服の袖を七里が引っ張る。


「変な略し方はやめろ。何かエロい言葉みたいだろうが」


「七里ちゃん。でも、封鎖されているんだから行っても多分見れないよ?」


「冒険者として協力するっていえば、入れるかもしれないじゃん!」


 確かに、騒動直後は、突然発生したモンスターに対処するために、公権力が民間人に協力を求めることが大っぴらに行われた。


 だけど、事態がある程度落ち着いてきた今となっては、先日登録したようなギルドを介することで、民間人の冒険者としての活動を統制する方向に舵を切られているはずだが。


「行って、万が一入り込めたとしてどうすんだよ。相手はアンデット系だぞ。由比ちゃんはプリーストだが、対アンデットの魔法は覚えてないし、裁縫師の俺はもちろん、アンデット用の装備なんて持っていない」


「私のアイテムボックスにゾンビスレイヤーが入ってるもん」


「だから、それまたクッソ重い大剣だろうが」


 火力厨の七里はゲーム時代やたらごてごてした武器を選り好んで使っていた。もちろん、様々なフィールドと敵に合わせなければいけないというゲームの性質上、スピード重視の装備も持ってはいるが、やっぱり装備の大半は今や置物にしかならない重装備だ。


 俺としては、さっさと売り払うなりトレードするなりして、身の丈にあった使える装備を集めた方がいいと七里に勧めているのだが、あいつは頑として聞き入れない。やっぱり皆、考えることは同じらしく、扱いにくい重装備の価値が暴落気味のため、安く買い叩かれるのが嫌らしい。


「お兄さん。とりあえず、行ってみてはどうでしょう。自衛隊の方に直に断られれば、七里ちゃんも諦めてくれるのでは」


 とてとて近寄ってきた由比ちゃんが耳元に囁いてくる。


 俺は目線だけで、由比ちゃんに応諾の意志を伝えた。

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