第55話 これはきっと一つの賭け
『共犯者』という言葉も、その後に続いた一言も、実に挑戦的なものだっただろう。
案の定、彼らはそれぞれに、驚いたりちょっとバツが悪そうだったり頷いたり。
様々な反応を見せた。
が、案の定激高や反論は見られない。
むしろ彼等の瞳には、少しばかり光明が宿ったように見えた。
おそらくそれは、安堵を言い換えても良いだろう。
少なくとも先程までの、幾ら進んでも見えない
やはり誰だって、追い立てられるようにどこにあるか分からないゴールを目指すのはしんどい。
それを彼らに示す事が今回のセシリアの役割であり、セシリアのその道しるべに自らがきちんと納得する事こそが、彼ら6人にセシリアが今回してほしい事だった。
――これで貴族の方の聞く耳は整った。
となれば、残りはもう片方だ。
「貴族家出身の生徒たちが、平民出身の生徒たちに意見を求めようとしなかったのは悪手でした。そしてそれは最低限の司会しかしていなかった私自身も、非協力的だったアンジェリー様も同罪です」
その声に、アンジェリーの睨みが向いた。
が、セシリアは気にしない。
実際、アンジェリーは「アンタのお手並み、拝見させてもらおうじゃない」と言わんばかりに終始無言でセシリアの采配を見ているだけだった。
完全な嘘を言っている訳でもないし、完全な言いがかりだとも言わせない。
それに、だ。
(先ほどこの場を冷静に『独りよがり』と言った彼女なら、おそらくコレの意味も理解しているでしょうしね)
セシリアは、自分とアンジェリー二人分の評価を犠牲にして話を次へと持っていく。
「しかし私達だけが悪いだけではありません」
これは、言えばおそらく少なからず反発を呼ぶ事だろう。
しかしそれでも言わねばならない。
何故ならこれは、一方だけの意識を改善したところで意味のない事だから。
「この場の3分の2を占めながら誰一人として一言も意見を口にしない。議論に入るそぶりを見せない。そんなあなた方もまた、自らを省みなければなりません」
だからそう言って、セシリアはペリドットの煌めく瞳を細めて微笑んだ。
この言葉に案の定、平民サイドの者達は静かにざわめき始めてしまう。
しかし誰も、セシリアには直接何かを言う事は無い。
セシリア個人の事を恐れてか、それとも貴族を恐れてか。
どちらかは分からないが、言い分があるのに何も言えないこの現実を、少なくともセシリアは健全だとは思わない。
「確かにこの世には身分差があります。が、だからといって身分の高い者が低いものを虐げ好きに扱っていい訳じゃない。これは世の中の仕組み云々以前に人の尊厳の問題です」
――そして私達貴族は、それが罷り通る世の中を許してはならない。
口にこそしなかったけれど、セシリアは確かにそう思っている。
「そしてそれは、身分の低い者にも十分言える事です。身分の低い者は、何も考えずただ上の者に誘導させるままに従う楽をしてはならない。それは自らの意思を楽と引き換えにして捨てるような行いです」
彼等はきっと、『自分にはそもそも発言権なんて存在しない』と勝手に思いこんでいる。
実際にそれは、ある意味世界の一面だろう。
しかし少なくともセシリアは、それをこの場での『普通』にする気はない。
「反論も、口にしなければ悲しい事に無かった事と同じになってしまいます。自分の存在を、心を守るために貴方方は、今ここで意見を口にするべきですよ?」
言外に「言われっぱなしで良いのか」と周りの事をけしかける。
そんな中何故か楽し気な気配が漂ってきたのを感じ、チラリと隣を盗み見た。
するとアンジェリーが、悪役に徹しようとする私を興味ありげに観察している。
彼女としては、決して好きになれない相手がみなの悪者になるというこの事態が少しばかり愉快なのだろう。
まぁその気持ちも、人としてはまぁ分からなくもない。
しかしその思惑に完全に乗ってあげる義理までは無い。
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