大切な友人を貶めるようなメイドに罰を

第11話 お菓子から広がる世界



 学校の授業にも色々とある。

 

 国の歴史や文字の読み書き、外国語にダンスの授業……。

 所属科に関わらず共通の教科もあれば、その科ならではの教科もある。

 そして、性別の違いによって必須科目が異なる場合もまた然り。


 その内の一つが、貴族科女生徒のみの科目『作法』。

 すなわち今行われている授業である。



「流石はテレーサ様。このケーキ、とても美味しいですわ!」


 お茶菓子のケーキを口に運び、とある少女がそう告げた。


 この授業は淑女教育の最たるもの、貴族としての振る舞いについて学ぶ事になっている。

 中でも今日は週に一度のお茶会の実習の日で、振る舞うお茶菓子はカリキュラムの一環で生徒が持ち回りで用意する決まりだった。


 そして今日は、セシリア達にとって2度目の『作法』実習。

 生徒がお菓子を持ち寄る初めての日であり、その栄えある一人目になったのが今年度貴族科1年で最も爵位が上となる、侯爵令嬢・テレーサだった。


「喜んでもらえて嬉しいわ、リリアさん」

 

 少しはしゃぎ気味に第一声を発した彼女に対し、テレーサはいたって落ちついていた。

 整った笑みを浮かべているが、言葉に対して大きく喜んでいる様子は無い。

 しかしこれこそ、淑女としての正しい姿だ。


 

 このリリアという少女は、テレーサと取り巻きの一人でもある。

 が、これがゴマすりではない事は、その緩み切った顔を見ればすぐ分かった。


 テレーサの取り巻きたちはみんなそうだが、彼女もまた義務だけでテレーサに着き従っている訳では無いのだろう。


(流石だな、テレーサ様は)


 彼女の功績をこうして目の前で目の当たりにする度に、セシリアは改めてそう実感する。

 国内で最も爵位が高いのが公爵だが、今代は訳あって1家しかない。

 その下の侯爵家だって3家しかないのだから、その家の令嬢となれば国内でもかなり上位の家である。


 そんな家の取り巻きをしていれば普通は媚びを売ったり増長したりするだろうに、テレーサは12歳という若さでそれをさせない統率力を発揮しているのである。

 その手腕は本物だ。


 だからそんなテレーサにも、そしてその取り巻きにも、セシリアは一定の好感を抱いている。

 が。


(一人の貴族令嬢としては詰めが甘い)


 だって今は授業中で、今回の実技課題は『とある貴族家で開かれたお茶会での振る舞い』なのだから。


「――このお菓子、チーズを使っているのでしょうが、とてもフルーティーなので癖が無くて食べやすい。紅茶にも合っていて美味しいですね。どちらのお菓子で?」


 セシリアがそう尋ねると、テレーサはフッと顔をほころばせる。


「今王都で流行りのお菓子なのです」

「それはもしかして、『ルルドベール』というお店の?」

「セシリアさんもご存じでしたか」


 そう言われ、セシリアは「お名前だけで、食べたのは初めてです」と笑顔で答える。

 そしてとある少女の方へと視線をやって「確かあそこの職人は、ローナさんのお家が収めるルーベルド男爵領だったのではないかしら?」と尋ねてみた。

 すると彼女は、まさか自分に話が移るとは思わなかったのか。

 ビクッと肩を震わせる。

 そして困ったような顔になってこう聞いてくる。


「あ、えっと……そうなのですか?」

「確かそうだったかと思いますよ。もしかしたらこのお菓子にも地元の品が使われているのかもしれませんね」


 そう言うと、彼女はまた困ったように「そうでしょうか」と言ってくる。


 おそらく彼女は、そもそも『ルルドベール』というお菓子屋さんの職人が自領の人間だという事も知らなかったのだろうし、地元の品と言われてもいまいちピンと来ていないのだろう。

 それは周りも同じ様子で、セシリア以外ではほんの一名を覗いた全てが「初耳だ」と言わんばかりの反応を示している。


 が、セシリアとしては「ここまで分かりやすい品を使ったお菓子なのに」と、ちょっと残念な気持ちになった。

 そして「困ったな」と独り言ちる。


(これでは、いくら話を聞きたくともこれ以上詳しく聞けないわ)


 せっかく興味をそそる疑問があるのに、ここで更に「詳しく教えてください」と言うのはまるで「調べてこい」と無理強いしているようでいただけない。


 そう思った時である、セシリアにとっての追い風が現れた。


「確か、かの男爵領の産業は乳製品だったと記憶しています。もしかしたらこのチーズは男爵領のものなのではないかしら?」


 そう告げたのはテレーサだった。 

 その声に、セシリアは「しめた。これで不自然にならずに『お願い』出来る」と内心で感謝する。


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