第10話 三つの派閥を入念に混ぜて三で割りたい ★



「入学シーズンには大抵いつも、貴族の子女間で『貴族と平民の線引き』について論争になるからね」


 今は領地で領主である父親の補佐をしている兄のキリルが、領地を出発する前日に行った3兄妹のお茶会で、まずそんな風に切り出した。

 

 セシリアが思わず「それはまた面倒そうな」と顔を顰める。

 すると、姉のマリーシアがそれにクスリと笑った。


「権力を誇示して優位に立ちたい『選民派』と、分け隔てなく交流したい『平等派』、虐げはしない代わりに必要以上に近寄りたくもないと思っている『傍観派』が校内には存在するのよ」

「えぇー……校内にも派閥などというものがあるのですか」


 そうでなくとも、毎年の社交で『保守派』と『革新派』という政治派閥が足の引っ張り合いをしているというのに、まさか学校でも。

 面倒臭い事この上ない。


 直接口には出さなかったが、そんな気持ちを隠す事無く表情に出す。

 と、キリルが「まぁ人が集まるところだからね」と苦笑した。


 確かに人が集まるところには、少なからず思想の対立という物がが生まれるものだ。

 が、分かっていても面倒なものは面倒なのだから仕方がない。


「普段は滅多に交流の機会が無い平民と同じ場所・同じサイクルで生活する事になるのだから、新入生は特に過剰に反応してしまう。こればっかりは毎年起きる事だから避けて通る事は出来ないでしょう」


 言いながら「愚かな事よね」とマリーシアが笑う。

 そこにキリルが、「まぁ」とセシリアに言った。


「しょっぱなから変な目立ち方でもしない限り、関係の無い論争なんじゃないのかな? だってそもそもセシリーは、三派閥のどれにも当てはまらない思想持ちだし」


 その声に、セシリアは少し「ふむ」と考える。

 そして「まぁそうですね」と頷いた。


 セシリアは、無駄な選民意識はナンセンスだと思っている。

 だからと言って自分から仲良くなりたいとも思わないが、必要ならばコミュニケーションはきちんと取るべきだとも思っている。

 

「私の場合、三つの派閥を入念に混ぜ込んで三で割ったような感じですね」

 

 自身の納得の為だけにそう小さく呟けば、それを聞いた兄姉が二人して同時にフッと笑う。


「私たち、やっぱり兄妹なんですよね」

「考えの終着点がシンクロし過ぎてちょっと笑える」

「それはとても光栄です」


 3兄妹は、そう言って顔を見合わせ屈託なく笑ったのだった。




 というやり取りがあったお陰で、セシリアはいわゆる『選民派』から睨まれても特に驚きはしなかった。

 これに関しては、わざわざしてもらっていた「変な目立ち方をしない」という兄からの忠告を守らなかった自分が悪い。

 そんな自覚も当然にある。


 しかし、もしもう一度あの日・あの時点に戻る事が出来たとしても、セシリアはまた同じ選択をする自信がある。

 そこに全くの迷いが無いのだから、どうにもならない。


「なぁセシリア様、アイツらあのままにしておいて良いのかよ」


 ふとそう言われ、セシリアはハッと我に返った。

 見てみれば少し苛立ち顔のユンが居て、「仲間思いの彼らしい事だなぁ」などという感想を抱く。


 今にも「言われっぱなしは性に合わない」という声が聞こえてきそうだが、それでもセシリアが今回の選ぶのは『敢えての放置』だ。


「面と向かって直接何かを言ってくるならばこちらも言葉を返す努力をしてもいいけど、あぁやって遠回しな嫌がらせしか出来ない度胸の持ち主よ? そんな相手にわざわざ使う時間が勿体ないでしょう」


 そう言えば、ユンの眉間にしわが寄った。


 言っている事は分かる。

 が、どうにも納得できない。


 おそらくは、そういう心境なのだろう。


「ユンも、もしかしたら何か言われるかもしれないけど、こういうのは上手く躱せないと大変よ?」


 セシリアがからかい口調でそう言えば、彼は少し片言で「あー……まぁ努力はします」と言葉を紡いだ。

 ここで「そうする」と言いきらないところが彼らしい。


 そんな彼に、セシリアは何やらほのぼのとした気持ちになった。

 が、他の二人はどうやらそうはならなかったようである。


「「不安ですね」」

「ハモるなよそこの二人!」


 執事とメイドの一言に、護衛騎士がそう返した。


 セシリアに対する周りの目がどうなろうと、彼らはこうしてある意味いつも通りの、賑やかで何だかんだで仲良しな日常を送るのだった。



 



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 当該話数の裏話を更新しました。

 https://kakuyomu.jp/works/16816700428159297487/episodes/16816700428240334044


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