第26話 0か100でしか考えられない奴らは ★
「入学早々みんなの前で身分に関して言及し、あまつさえ今日の昼間にも平民擁護のような事を言ったセシリア嬢が、第二王子と侯爵家の子女二人、それから未来の国の発展を約束する研究をしている子息を招いてお茶会を開く。貴女は一体、何の悪だくみをしているのか」
アリティーが、そう言って実に愉しそうに笑う。
そもそも彼は、ちょっと……否、かなり捻くれた性格をしている。
どんな感情であれ、自分がセシリアの心を揺らせることに関して一種の愉悦を抱けてしまうちょっと残念な王子なので、多分今、さぞかし愉しい事だろう。
が、セシリアとしてはむしろそれが気に食わない。
「人聞きの悪い言い方をしないでください。そもそも殿下は私から招待した覚えなどありませんよ」
「バレてしまったか」
分からないように自分も仲間になれるように滑り込ませてみたんだけど。
そう言ってみせた彼は、もしかするとこのお茶会へのゴリ押し参加も、「愉しそうなメンツだから」という理由以外に「自分が呼ばれなかった事がちょっと寂しかったから」というものもあったのかもしれない。
結局のところ、その答えを知るのはアリティーただ一人だけだ。
「私としては、この中で今一番周りから注目されているのは間違いなくセシリア嬢だというみんなの意見に賛成するよ」
そう言って笑う彼に、セシリアはこれ見よがしに深いため息で応じる。
「まぁ周りの目にはそれなりに自覚もありますが『平民擁護』と言われるのは心外です」
そう言ってティーカップをスイッと口に付けた彼女の所作は、嫌そうな口調とはミスマッチなくらいに洗練されていて美しい。
しかし所作とはそもそも教え込ませれば体が覚えて勝手に発動するものだから、嫌そうな声も紡いだ言葉もポーズでは無く本音だろう。
それはある意味ここでの彼女が気を抜いている証拠であり、気が抜けている証拠でもある。
「心外? でも貴女は入学式の時には権力の使い方を貴族に説き、今日は平民と同じ場所で食事を摂る事を肯定した。それらが立て続けに起きれば周りは『セシリア嬢・平等派支持』だと思うだろう」
違うのか?
そう聞いてくる彼の瞳は、本当にそう思っていたという色をしている。
しかしセシリアはそんな宣誓をしたつもりはない。
だから慌てて否定しにかかる。
「『平等派』というのはつまるところ、貴族・平民に関わらず誰とでも平等に接しましょうという事です。そんな派閥に染まる事などあり得ません。入学式の時は単に『貴族としての義務を正しく行う必要性』を訴えただけですし、今日のは『貴族の品位が場所一つで変わる事は無い』と言いたかっただけですもの。それのどこが『誰とでも平等に接しましょう』になるのですか」
セシリアだって入学式だったあの日以降、どうにもそういう風に思われている節がある事には気が付いていた。
だから一応セシリアなりに、そのような誤った認識を打ち消すように動いていたし、貴族サイドには一定の成果を出している。
しかしそもそもセシリアは貴族にしか伝手が無いし、従者から平民サイドにその手の噂を流してもらうには人脈作りの時間を十分に与えてやれていなかった。
そんな事は、『やらかす』前にきちんとリスクとして認識していた。
しかしそれでも、あの時あの状況でのアンジェリーのあの振る舞いは、『貴族の義務』を負うものとして、決して看過できるものでは無かったのだ。
だから結局行動した。
その結果、『貴族の義務』確かに果たすことが出来た。
しかしやはりと言うべきか、遅ればせながら最低限の人脈作りが成った時には既に平民サイドには広く噂が独り歩きしてしまっており、今に至る。
いわゆる思想的過激派な一部貴族と、初めて身近で『貴族』というものに触れた平民たちの半数以上が、その志に大きく心を揺らされて、良くも悪くも騒ぎ始めた。
「どこにでも居るよね、0か100にしか物を考えられない奴らって」
そう言ったのはレガシーだ。
どうやら彼も少しは慣れて来たらしい。
やっといつもの毒舌が顔を出し始めている。
対してクラウンは「入学式のと今日のと、それぞれ別で考えると別にそうでもないんだけどな」と呟いてくる。
「おそらく賛同者……否、むしろもう『旗頭』か。それを作りたい『平等派』とセシリア個人に良くない感情を持っている貴族は特に、勝手に憶測しそうな話ではあるか」
そう言った彼は、しかしおそらく「言われてみれば」という程度なのだろう。
何やら新しい発見でもしたかのように、驚きながらも考えている。
と、ここでテレーサが眉尻を下げて「申し訳ありません」と言ってきた。
「今日のは私を庇っての事だったのに、セシリアさんにはご迷惑を掛けてしまって……」
↓ ↓ ↓
当該話数の裏話を更新しました。
https://kakuyomu.jp/works/16816700428159297487/episodes/16816700428802231506
↑ ↑ ↑
こちらからどうぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます