第25話 ビックリ箱なこのメンツ
それは本来間違いなく、無礼な物言いでしかない。
最悪不敬罪ものだ。
だがしかし、不敬罪は――。
「え? もしかしてそれは私の事を言っているのか?」
不敬罪は、親告罪だ。
本人が「不敬だ」と言わない限りは適用されない。
それが貴族のルールである。
そしてそれは周りの目が無く体裁を取り繕う必要が無く、貴族としてのプライドでこの関係を壊したいと思う者が居ないこの場では、加味する必要のないリスクだった。
だからこそ開けっ広げにそんな言葉を場に出したセシリアに、彼女の向かいに座っている少年がフッと笑う。
細められた彼の紫色の瞳周りに、全く本心を読ませない。
しかしそれでも、自身の行いの微塵も罪悪感を抱いていない事は分かる。
彼の名は、アリティー・プレリリアス。
この国の高貴なる血筋・第二王子その人であり、クラウンが『あの方』と呼んでいた人でもあり、そして内緒で開く筈だったこのお茶会の話をどこからともなく聞きつけて実質ゴリ押しで今日今ここに居る人だ。
そんな人間が同じテーブルを囲っているとあってクラウンはちょっと固くなっているし、元々人見知りなレガシーに至っては自分より随分と地位の高い人間相手を前にしているという要素も含めて、最早ちょっぴり顔面蒼白になっている。
一方で彼とは普段からそれなりに交流があるテレーサは、流石に緊張が全く見られない。
これは流石と言うべきか、当たり前と言うべきか。
否、当たり前を思わなければ彼女に対し失礼だろう。
ともあれ、である。
二人とも、一応彼が今日来ることは事前に通達済みだった。
だから無理強いした訳でもないし、これでもまだ心の準備は出来ている方だ。
それでも緊張してしまうのは、この際どうしようもない――のだが、アリティーはセシリアにこう言った。
「でもさぁセシリア嬢、それを言うなら貴女も悪い」
「何がです」
「だって見てみなよ。バラエティーに富みすぎでしょう、この人選は」
こんなおかしな人選するなんて、私に興味を持つなっていう方がおかしいよね?
彼は言外にそう言ってきている。
勿論セシリアに、他意はない。
流石に彼女だってこのメンバーが周りの憶測を呼ぶだろうという事は分かっているが、本心はただ自分が気の置けない相手に声を掛けただけだ。
が、招待客たちはみなそれぞれに反応していく。
「まぁ確かに、殿下を除いても俺たち四人が仲良くテーブルを囲んでいる姿なんて、傍から見ればかなり気になる事でしょうけど」
「ちょっと待ってクラウン様、このビックリ箱に僕を含めないでよ。国を二分している政治派閥の片割れである『保守派』筆頭家の娘・テレーサ嬢に、もう片方の『革新派』重鎮家の息子・クラウン様、あとセシリア様は分かるけどさ」
「レガシーお前、何言ってんだ。お前だってその歳で鉱物研究家として名を馳せてる時点でビックリの仲間入りだ!」
逃がさないぞ。
そう言いたげなクラウンの口調に、セシリアは思わずコロコロと笑う。
「確かに貴方達三人は、ちょっとビックリ箱感がありますよね」
「「「セシリア嬢(さん)が一番のビックリ箱だよ(ですよ)」」」
綺麗に揃ったその突っ込みに、セシリアは「え?」とキョトン顔になる。
「だって君、貴族界でも学校でも既に注目の的なんだよ? 分かってる?」
そう言ったレガシーは、確かに研究家として知っている人にはその名前を知られている。
しかしそれも、ごく一部の人間にだけだ。
周りはまだ子供ばかりで、興味のあること以外には基本的に無関心。
世情の変化に敏感な先見家や専門的な学問に興味のある者くらいしか彼の名を知る者は居らず、そういった人間の多くは既に学校を卒業した貴族達だ。
他の人間と一緒に論う時に掲げるべき冠を持っているというだけで、彼個人が目立っている訳じゃない。
「確かに『俺たちの中で一体誰が気兼ねなく息抜きに喋れる場を作れるか』っていうと、派閥のしがらみが無くて主催力があり、俺たち侯爵家の人間を招いても失礼じゃない家格のセシリア嬢が適任だけどな」
そう続けたクラウンは、政治派閥的立場でも貴族爵位的立場でも確かに未来を担うべき人材であり、否応なしにある程度は目立ってしまう。
しかしそれでも、ただそれだけだ。
彼には過去に目立つことをやらかした事があるため、今でも貴族内で彼の家を貶す時に、ネームバリューがマイナスな彼の名が名指しされる事がある。
が、学校での名前売れに関しては、せいぜい『今年入った侯爵家という身分の高い生徒の一人』というイメージしか存在しない。
今の所目立った素行不良は無いし、逆にすこぶる優秀という訳でもない。
これには『まだ学校が始まって間もないから見せ場が無い』という理由が挙げられるが、彼が目立つのは彼が持つ立場を理由としたものだけだ。
「それでもやっぱり平民を含めた注目度的には、この中ではセシリアさんが最も高い事でしょう」
そう締め括ったテレーサは、クラウンと同じく政治派閥的立場・貴族爵位的立場を背負っているが、その上更に『第二王子・アリティーのお妃候補』という肩書もある。
そういう意味ではクラウンよりも周りの注目度は高いものの、それ以上に語るようなところは無い。
それこそちょっと平民のスペースで良く姿を見かけるくらいのものなので、貴族科以外の生徒たちからすればむしろ「優しげ」だとか「平民を邪険にしない良い貴族」というような好印象を持たれているかもしれない。
が、それだけだ。
対してセシリアはどうだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます