エピローグ セシリア達が選んだ課題
第60話 セシリアグループの貢献課題コンセプト
3度目の『貢献課題』の打ち合わせ時から数日後。
例の如くテレーサと共に昼食を食べていた所、珍しい来客があった。
「たまには一緒に食事しない?」
ちょうど食堂でのいつもの席に着いたところで、そう言われてそちらを見やる。
そこに居たのは、まるで手を腰の後ろで組んでニコニコと笑みを浮かべて立っている同年代の少年だ。
セシリアは、この男を良く知っている。
それはもう、迷惑なほどに良く知っている。
(はぁー……こんな所で声をかけるなんて)
アリティー・プレリリアス第二王子殿下。
彼はどうしようもなく目立つ。
それを彼自身、間違いなく自覚している筈なのに。
(これは私達への嫌がらせか何かなんだろうか)
そうは思うが、流石に周りの目があるこの場であからさまに彼を邪険にする訳にもいかない。
チラリと前を確認すれば、テレーサがニコリと笑って頷く。
彼女に悪気はないのだろうが、お陰で逃げ道は塞がれた。
内心で激しくため息を吐きつつ、私は殿下に「どうぞ」と席を進めるしかない。
すると彼は、笑顔で「ありがとう」と応じる。
貴族席でないこの場で食事をするのも、まるで気にした様子が無い。
私がここでは強く出ないだろう事も含め、きっと全てが彼の計算通りだったのだろう。
そんな彼の計算高さに「まぁこちらに害があるまでは」と許容せざるを得なかった。
それから食事が運ばれてきて、食べながらいつものように世間話に花を咲かせる。
その間は、いつものテレーサとの会話にアリティーが入ったというだけのものだった。
しかし昼食を全て食べ終え食後のティータイムとなった時に、彼は切り込んでくる。
「ところでセシリア嬢、君また面白い事をし始めたみたいだね?」
その言葉と爽やかな笑顔の端に見えたニヤリ顔に、セシリアは思わず「今日来た理由はコレだったか」と内心で呟いた。
「それは一体どれの事です?」
何の事か分かっていて敢えて知らないふりをしてみれば、彼はそのかけ引きを楽しむように笑みを深める。
「もちろん『貢献課題』の件だよ」
「あら殿下、もしかしてご存じないのですか? 他のグループの課題の詳細は聞かないのが暗黙のルールですのに」
「そうだよ、暗黙のルールだ。つまり絶対という訳じゃない」
どうしても知りたいらしいアリティーに、セシリアは小さくため息を吐いて頬に手を当てる。
「まさか殿下がそのように常識の無い方だとは……」
「困りましたね」と言いたげな顔を作れば、彼はおそらく先ほどの一言で話してくれると思っていたのだろう。
笑顔を硬直させたまま、一度グッと押し黙ってしまった。
しかし流石はアリティーというべきか。
すぐに両手の指を自分の前で組み、持ち直してこう告げる。
「教えてよ。私とセシリア嬢の仲だろう?」
「同い年のクラスメートという仲で、常識を押してまで殿下だけに利のある話を私が一方的にするというのは些か公平性に欠けているのではありませんか?」
セシリアには、ただで彼の手のひらの上で踊らされてやる訳にはいかなかった。
単純に気に食わないというのもあるが、暗黙のルールを破らせられる以上はリターンも欲しいと思うのは至極当然の事である。
そしてそんなセシリアの思考を、アリティーは正しく受け取ってくれたようだ。
「でも小耳に挟んだ話だと、校内の人たちにも協力してもらいたいじゃないの? 私ならそれも手伝ってあげられると思うけど」
これは彼の交換条件だ。
セシリアが見返りに「アリティー側の課題情報」よりも「セシリア側の課題への協力」を欲していると察した上で、遠回しに「スピーカー役になってやってもいい」と言ってきている。
その申し出に、セシリアは内心でほくそ笑んだ。
アリティーは目立つ。
それは見た目や立場だけじゃなく発言だって同じことだ。
つまり彼がスピーカーとして機能してくれるなら、それは大いに役に立つ。
私はさもしょうがなさげに「仕方がありませんね」とため息を吐き、ペリドットの目で彼を見る。
ここにはテレーサもそれぞれの従者も居るが、今更言った所でどこも真似は出来ない。
既に課題を決めて行動を開始しているし、そもそもここまでの事となるとグループ内で余程の連携が取れていないと無理だろう。
身内びいきになっているような気もするが、セシリアとしてはあそこまで手塩にかけて地盤を固め生徒間の落差を無くしたあのグループだからこそ、実現できる事なのだと自負している。
つまりここまでの彼との攻防は、言質を取るためのただのかけ引きでしかない。
アリティーは、人を罠にかける事はあっても嘘を吐く事は無い。
そんな性格を分かっているから、セシリアは確実な利を得るための言質を優先し、彼は彼でセシリアとのかけ引きそれ自体に楽しみを見出している。
そういう意味で、ここまでのやり取りは互いにWinWinだったのだ。
だからセシリアは、躊躇なくこう切り出した。
「我がグループの貢献課題のコンセプトは『全てを巻き込む』なのですよ」
と。
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