第61話 課題の全貌



 セシリアの言葉にアリティーは「ふぅん?」と言いつつ笑みを深める。


 ひどく興味を惹かれている様が、笑みから明らかに見え隠れしている。

 それを見ただけでセシリアには「彼は『正しく』理解した」と容易に察する事が出来た。


「貴女の言うその『全て』は一体どこまでの事なのか……」

「アリティー様はどう思います?」


 疑問形になっていない疑問を挟まれたので逆にそのまま問い返せば、彼は視線を少し落として考える事2、3秒。

 顔を上げてこう告げる。


「どうやら貧民街の者達を雇い入れる形で巻き込む算段をしているらしい。それが最近私の耳に入ってきた話だけど、わざわざそう言うって事は、巻き込む対象はソレだけじゃないって事なんだよね?」

「えぇ勿論」

「……課題を行う場所は、王都の中心街にある広場の予定だと聞いた。という事は、その周りの人たちもかな」

「彼らも確かにそうですね」


 セシリアもアリティーも、笑顔の仮面を被りつつ互いに互いの腹を探り合う。

 するとそこに、テレーサが首を傾げつつ口を挟んだ。


「もしかしてセシリアさん、この学校の生徒たちも巻き込もうとしています……?」

「ほう?」


 彼女の声にアリティーも、相槌を打ちつつ「どうなのか」と目で聞いてくる。


 無垢な疑問と好奇心に満ちた催促。

 その二つに押されるように、セシリアは小さくため息を吐いた。


 そういう反応になったのは、何を隠そうそれが正解だったからだ。

 

「テレーサ様。どうして分かったのか、参考までに教えていただけません?」


 その話はあの円卓ではまだ伏せておこうと決めた事だった。

 もし誰かから聞いた事なら、それなりに話は広まっているとみるべきだろう。

 別に悪い事をしている訳では無いのだから、広まって困るという事も無い。

 ただしそうならこの後の計画を少し修正せねばならない。


 そう思って聞いてみると、テレーサは予想が当たって嬉しかったのか。

 少し顔を綻ばせる。


「セシリアさんが為す事の突飛由の無さと実現力を鑑みて、今たまたま天啓のように『もしかして』と思っただけです。しかし本当にそんな事をお考えで?」


 テレーサがそう尋ね返すと、隣でアリティーも「その生徒はグループメンバーだけではなく学校中の生徒たちをという意味なのかい?」と聞いてくる。


 そんな二人に、セシリアは「えぇ勿論」と頷いた。


「前代未聞だ」

「そうですね」

「それだけの人たちを巻き込むなんて、采配もかなり大変になります」

「そうだと思います」


 それでも、だ。

 それでもやるだけの価値がある。


 自分の中の怠惰と戦ってでも、セシリアはそう思っている。


「私のグループが行うのは、王都中。貧民も平民も貴族も、その全てを巻き込んだフリーマーケット」

「『フリーマーケット』?」

「えぇ。普段街での商いは、街から出店を認められた方のみの出来る事。しかしその日一日限り、王都の中央広場でだけは、どのような民でも出店できるようにします」

 

 そう告げると、アリティーは「ふむ」と考える。


「そこではどんなものを売るんだい?」

「何でも、です。手作りでも、家にあるけど使っていないものでもいい。それらを互いに持ち寄って、それぞれで値段を付けて売るのです」


 つまり値付けは、早く売れてほしかったり使ってくれる人の手に渡したいと思うのならば定価より安く、逆にこだわって作った物の場合は希少価値を込めて少し高く。


 そんな風に説明すると、「しかし」とここで待ったが入る。


「もし売れなかった時に苦情が来たりするんじゃないかい?」

「私たちはあくまでも、場を提供するだけですよ。売れるも売れぬも自己責任。その為の本人たちによる値付け権です」


 それらの事を考えれば、フリーマーケットでの値段はおそらく商店での定価よりも下がる。

 しかしそれもたった一日だけの事、モノの相場が崩れる心配もしなくていい。


「手作りや不用品という事ならば、確かに平民や貧民であっても参加はしやすい事でしょう。それでこの学校の生徒たちはどのような巻き込み方を?」

「店として参加したい方を募ります。その他にも、店を開く程ではないけど不用品を寄付してくれる方には品や数によって当日のみ使える一定価格の引換券を。頂いた不用品は我がグループで開く店で売らせていただき、得た収入は孤児院に寄付します」

「なるほど。協力してくださった方にはお小遣いを渡す。基本的には平民たちの催し物ですが、得た収入の一部が寄付に回されますから『ノブレスオブリージュ』の体裁で貴族生徒からも協力が得られる、と」


 テレーサが感心したように「ほぅ」とため息を吐いた。


「流石はセシリアさん。『フリーマーケット』という今まで無かった概念を作り出し、その指揮を執ろうだなんて」


 思わずと言った感じでそんな一言が呟かれた。


 しかしその物言いに、セシリアは微笑を洩らした。


「いいえ、テレーサ様。この案は、皆で悩み、考え、案を出して詰めた結果ですよ」


 そしてここまで、街とたくさんの人々を巻き込む事をするのだ。

 協力してくれる方々の力と団結が不可欠になる。

 確かに指揮を執る人間は必要だけど、それ以上にコレは、一人でできる事ではない。


「この終わりには『は凄いなぁ』と、全校生徒に言わせてみせます。そのために」


 そう言って、セシリアはアリティーに策略染みた笑みを向けた。

 

「殿下には少々手を貸していただきたく思うのですが」


 

 


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