第59話 動き出す会議 ~ランディー視点~



「でもそれだけ結局貧民街の人たちは除け者になっちゃうんじゃぁ……?」

「ん? 何故だ、街だぞ?」

「えっとその……同じ平民出も貧民街の人たちは特に一目で身なりの悪さが分かりますから」


 ボロボロの服とか汚れた髪や肌とか。

 そのせいで街の人たちからも邪険にされがちなんです。


 直接尋ねられて少し驚いた様子の平民の子は、しかしそれでもちゃんと答えてあげている。

 すると彼はまた少しカルチャーショックを受けたようで「そ、そうなのか」と言ってまた考える。


「巻き込む規模を多くするなら街開催にして学校のメンツも貧民街の連中もみんなを一気に集めればとりあえず解決だけど」


 そう言ったのは、青制服の男の子だ。

 少し生意気そうな口調だけど、この着眼点は中々良いような気がする。


「……あ」


 学校の方はさて置いて、貧民街の方については簡単な方法が一つある。


「貧民街の連中は、そうだと見た目で分かるから邪険にさせる。なら分からない様にすればいい」


 呟くようにそう言うと、「じゃぁ身なりを整えてやれば良いか!」と貴族の少年が声を上げる。

 するとそれに苦言を挟んだのは、黄色の制服の生徒である。


「でもうちのお父さんは『人に施す時には対価を貰わないとダメだ』って言ってたよ……?」


 黄色という事は商業科の生徒だろう。

 もしかしたら父親は商人なのかもしれない。

 そうならば、『対価』というものの考え方にも合点がいく。


 

 見てみると貴族の子女たちは、その考え方に小首を傾げている物だ。

 そういえば先ほども会話の中に「ノブレスオブリージュ」という言葉があった。

 彼等にとっては平民に施す事こそ『当たり前』なのかもしれない。


 が、それは素晴らしい行いである一方で、継続的ではないような気もする。


「貴族で言うところの『ノブレスオブリージュ』は、自らが継続して行えるという担保を持って真にやる価値があるんじゃないかと私は思います。そういう意味では今回一度だけ確実に与えられるという行為は『無』ではないけど『不足している』と言えるのかもしれません」


 まるでランディーの心を紐解いたかのような声に視線を向ければ、にこやかなセシリア様が居た。

 流石だなと思いつつ、彼女の「この言葉は必ずしも貴族の『ノブレスオブリージュ』を否定している訳じゃない」という意を汲んで、「対価を貰いつつこちらも与えられる方法……」と、自らもその言葉を頭の中で反芻するついでに声に出す。


 するとまた誰かがおずおずと意見を出した。


「俺達の課題を手伝ってもらえばいいんじゃない? その代わり身なりを綺麗に整えてあげて毎食のご飯を支給するとか」

「あっ! それなら普通のお店と一緒だよね! だってどのお店も人を雇って働かせるもん!」

「でも外部の協力者とか……ありなのか?」

「俺兄貴が居るんだけど、関係ない人たちを巻き込む課題なんて聞いた事ないぞ?」


 良い案だ、とランディーも思った。

 だけど確かに前例のない事をするのは中々にハードルが高い。


 と、ここでまたセシリア様が口を挟む。


「念のために事前に先生に問い合わせてみたところ、課題の条件は『支給される資金の中でやりくりする事』と『実績を作る事』、それから『レボートを提出する事』の三つだけだから大丈夫だそうですよ?」

「マジか!」

「じゃぁ出来るね!!」

「人出が増えるなら大きな事が出来るんじゃね?!」


 この言葉にみんなが勢いづいているが、ランディーは人知れずセシリア様に戦慄していた。

 だってそうだろう。

 『事前に問い合わせしてみた』なんて、まるでこんな話運びになると分かっていたかのような物言いだ。


 思わず「まさかそんな」と笑って、それから「……え、まさかな?」と彼女の顔を見てみるが、にこにこ笑う彼女の真意は分からない。


 本当に恐ろしい子だ。



 こうして話は進行していく。

 まるで2回目の話し合いの膠着状態が嘘のように次々とコンセプトが決まっていき、課題の主軸が決定して、その詳細から必要な役割までスムーズに決まった。


 そこで時間切れとなり、次の時間に役割分担をして本格始動という話になったのだが。


(これ、控え目に言ってもすごくないか……?)


 少なくとも大人のランディーでもそう思うようなものが形になろうとしている。

 しかも貴族と平民が互いに協力し案を出して、だ。


 その現実に、胸が高鳴らずにはいられない。

 最初こそ「どうしたもんか」とか「ハズレだな」と思っていたグループ分けだったけど、まだほとんど何も始まっていない現状で既にランディーは「このグループで良かった」と思い直してしまっていたのだった。


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