第34話 助っ人は、赤髪の
「――クラウン様」
セシリアが思わず乱入者の名を呼べば、彼は彼女にニコリと一瞥笑みを向けた。
そして彼はスイの方を向き、彼女にこんな事を言う。
「あまりセシリア嬢を濡れ衣で追い詰めると、痛い目を見るのはスイ嬢の方になるかもしれない」
「クラウン様……?」
クラウンが告げたその言葉に、スイが怪訝そうな顔になる。
それはそうだろう。
彼女としてはあくまでも自分は正しい情報を持っていて正しい事をしていると思っているのだ。
そんな自分が負けるなんて全く想像もついてないというのは、ある意味至極当然であるように思える。
しかしそれでもセシリア相手の時よりは、スイも随分とクラウンの言葉に耳を傾けているように見えるのは、おそらく2人が顔見知りだからだろう。
クラウンは政治派閥『革新派』の重鎮家の息子であり、スイは同じく『革新派』の家の娘だ。
歳は彼女の方が2つ上だが、そのくらいの差であれば、十分同じ年代と言えるだろう。
2年前以前の彼ならともかくそれ以降の彼となら、スイもそれなりに気があったろうし二人の間に信頼があっても何もおかしな事じゃない。
そんな彼が、こんな風に言う。
「俺は今来たばかりだが、ずっと見ていたものに大まかな話は聞いた。貴女はどうやらセシリア嬢がアンジェリー嬢とそのお母上を貶めるような言動をしたとか?」
「その通りです、殿下! 私は絶対にこの横暴を許す事は出来ませんっ!」
そう言われ、クラウンは少し考える素振りを見せた後で「そう言えば君は、エクサソリー家の方々をひどく大切にしていたな……?」と聞く。
すると彼女は「はい」と言って視線を落とした。
「私は見た目が異国風ですから周りからずっと遠巻きにされていました」
その顔を見て察するに、彼女はその見た目のせいで過去、迫害に似た被害に遭ったのかもしれない。
セシリアとしては見た目や生まれの違いで誰かを虐げる事は頭の悪い所業としか思えないが、誰もがそう思っていない事も知っている。
そしてそんな者達の心無い言葉が幼い心にどれだけ突き刺さるかも、想像しか出来ないがさぞ傷付いた事だろう。
しかしそれでも、彼女の表情は明るく綻ぶ。
「そんな中私に良くしてくださったのがエクサソリー家です。アンジェリーは少し甘えん坊ですがそれでも私を慕ってくれますし、お母様はお体が弱い方ですがいつも私に優しくしてくださいました」
それだけで、彼女にとっての2人がどれだけ大きな存在なのかが分かる。
が。
「だからこそ私は決してこれを許す事は出来ません!」
だからこそなのだと、彼女は肩を怒らせた。
視線がかち合うがセシリアは、口を挟む事は無い。
もしここで再び口を開いても火に油しか注げないと思っているのだ。
そして今は幸いにも、代わりに話を転がしてくれるクッションが存在する。
彼の事はセシリアも信頼に足ると思っているから、少し様子を見る事にした。
そんな中、クラウンは「うーん……」と小さく唸る。
するとそれを、自分を蔑ろにするものだとでも思ったのだろう。
スイが「幾らクラウン様のご友人でも『それだけで信じるに足る』というお話ならば納得できかねます」と抗議する。
やはり彼女は些か平静に欠けているようだ。
セシリアがそんな感想を抱いたところで、クラウンは「いやそのつもりは無いが」と前置いた。
「セシリア嬢とアンジェリー嬢の件の話については俺も、色々と小耳に挟んでいる。それこそどちらかに対して一方的にな見解の物も中にはあったが……ここまで酷いのは初めて聞いた。だから少し気になっていてな」
そういう彼は、スイを問い詰めるというよりは少し困った様子である。
「その話は誰から聞いたものなんだ?」
「そんなの勿論アンジェリーです! あの子は私の前で涙を流して『酷い事を言われた』と言ったのです。その後も会う度に『周りもみんな遠巻きにする』『私は被害者だというのに』と! 実際に最近、あの子は周りから孤立しています!」
そう訴えた彼女の言葉を聞きながら、セシリアは「まぁあれだけ自尊的な言動をしたんだから遠巻きにされても仕方がないよな」と独り言ちた。
誰だって、自分から彼女の自尊心の被害者にはなりたくないのだろう。
因みにセシリア自身にはもう既に思う所はあまり無い。
セシリアの中ではあの時物申した事で全ては終わった事になってる。
彼女に対し、精神的な禍根は全く残していないのだ。
アンジェリーは貴族科一年、同じクラスなので顔を合わせる機会なんて本当ならば沢山ある。
となれば二人の間の気まずさのようなものも徐々に解けていきそうなものなのだが、相手の方はそれを望んでいない節がある。
セシリアが挨拶をしても応じない。
話しかけても聞こえなかったふりをする。
結構な頑なさなので、取り付く島はかなり少ない。
頑張れば彼女に心を開かせることも可能なのではないかと思う。
しかしセシリアには、わざわざそこまでしてやる義理を全く以って感じていない。
という訳で、彼女は更に孤立するという負のループに陥っているという訳だった。
「俺はな、スイ嬢。正直言って『口では何とでも言える』と思っているんだ」
少しの沈黙を経て、クラウンはもう一度そう口を開いた。
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