第98話 あまりにも彼女らしくって ~アリティー視点~



 しかしどうやらその提案は、純粋な心配から来ているようだ。

 少なくともアリティーにはそう見えた。

 

 それに対してセシリアは、「はい」と言う。


「これはあくまでも学校課題の一環ですから、出来るだけ生徒の中で完結するようにしたいと思っています。それにグループ内の貴族生徒には個人で雇っている護衛の動向を許可しますし、貴族関係の客については『自己防衛をちゃんとする事』と事前に『平民と同じ空間で買い物をする場である事』を理解してもらってから参加していただきます」


 おそらくダメとは言われないまでも、説得される可能性をあらかじめ考えていたのだろう。

 彼女の言葉は流暢だ。


「私服の中に騎士服の生徒でウロウロとしていれば、ただそれだけで目立ちますから、警備が居ると目に見えて分かるのでトラブル抑止になるでしょうし、彼らにとっても少なからず警備経験の実績になるでしょう」

「つまり、未来の騎士たちに早いうちから仕事を経験させようと?」

「学校課題の一環です、そんなに大袈裟なものではありませんけれど」


 そう言って微笑むセシリア嬢に、アリティーは小さく「ほう」と感心した。


 確かにただの授業の一環である貢献課題のお遊び警備ともなれば、ただの『それっぽい何か』というだけで、精神的にはどうあれ実際的な経歴には含められない。


 が、例えばもしこの課題の結果国がその有用性を認めたとしたら。

 おそらく定期的に彼女たちの『フリーマーケット』は国家事業として開催される事だろう。


 そうなれば、最初の企画で警備した騎士として、それなりに周りの覚えは良い筈だ。


(全く君は……一体いつから、一体どこまで考えているのか)


 そう独り言ちながら苦笑する。

 

 最初からなのか、それとも後で副次効果を狙っての事なのか。

 どちらにしても彼女の事だ、もう既にその可能性には気が付いている事だろう。

 それなのにソレを口にしないのは、万が一この課題が悪評に繋がるような結果に終わった時に、他に飛び火させない為だ。


(彼女の事だ、もし何かトラブルが起きたらその時は、きっとまたさも「当たり前だ」と言わんばかりの顔をしながら、『監督者の義務』としてその汚名を背負う気なのだろう)


 そんな彼女があまりに彼女らしくって。

 そんな想像がついてしまう自分が、彼女の事をちゃんと知れているようで嬉しくもあって。

 一人で勝手に機嫌が良くなってしまう。


「もちろん私たちは学生ですから、無理はしません。自分たちの手に負えないと分かった時には憲兵を頼る。場の安全の為に周りに頼る事もまた、主を護るために最善を尽くす騎士の適性だと思いますから、それは彼等にも伝えます。ですからそうなった場合に」

「あぁ、すぐに手を貸してあげられるように、彼等には必ず伝えよう」

「ありがとうございます」


 セシリアの声に、子爵は深く頷いた。

 それに彼女も頷き返し、「今後ですが」と話を変える。

 

「前回許可を頂いた通り、休み明けから街中に『フリーマーケット』開催のポスターを貼らせていただきます。今日5枚持って来ているのですが、期間中には王城内にも貼っていただけないでしょうか?」

「あぁそうだな。前回の話には無かったが、確かに広場を貸し切ってするのなら王都でも話題になるだろう。自分たちのお膝元でする行事の内容を王城勤務の者達が全く知らないというのも変な話だ」


 彼はそう言って、受け取る姿勢を見せてくれた。

 それに合わせてセシリアがスッと横に目配せをし、気付いた一番端の男が筒状に丸められた分厚い紙を幾つか出して、子爵たちの方に持って行く。


(確かこの男、ランディーとか言っただろうか)


 生徒にしては年を取っているからそれなりに目立つし、最近セシリアの周辺でたまに見るから、アリティーとしても見覚えはある。


 ポスターを渡すだけなのに目に見えて緊張しているし、見た目も冴えない男だが、セシリアがこうして一緒に連れ歩いている人間だ。

 それなりに、どこかしら見どころがあるのだろう。


 セシリアは意味のない事に労力を割く事を嫌う。

 そんな事は、彼女をずっと見ていれば口にせずとも分かる事で、もうかれこれ2年以上彼女を追いかけているアリティーからすれば知っていて知っていて当然の事だ。


 そんな常識を知っていれば、ランディー=それなりのヤツという構図は最早確定事項に変わる。

 それがランディー本人にとって良いか悪いかは置いておいて、それは仕方がない事だった。



 ランディーからポスターを受け取ると、子爵は「ほぅ?」と声を上げた。


「思ったよりも本格的……と言うと、少し失礼に当たるかな?」


 感心したような声の彼に、セシリアは「いいえ」と笑って答える。


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