第126話 ルール違反
セシリアが目的地に到着するまでもなく、おおよその状況は察せられた。
おそらくあちらもこのまま排除されるのは「まずい」と思っているのだろう。
大袈裟に抗議し周りの注目を敢えて誘っているのが見え見えだ。
(おそらくアレでトラブルの演出をしているつもり、なのでしょうね)
確かに彼の努力は正しい。
まだ開店時刻までには30分ほどあるため、出店作業をする者以外の入場はまだ認めていない。
それでも王都のど真ん中でこんな大きなイベントの準備がされていれば、朝であっても周りの目は注がれる。
彼の努力は、中の者達だけではなくそういった外の者達の目をも集める事に成功していた。
むしろこのトラブルに「他人の不幸は密の味」とでも言わんばかりに注目度が上がっている、という事まである。
が、それでもセシリアは動じない。
(来ると思っていましたからね)
角を曲がれば案の定、制服姿で巡回中だった『警備計画・指揮管理』セクションの生徒が数人がかりで、暴れんばかりの大人を一人囲んでいた。
その後ろには荷馬車を引く数人の男が困り顔で立っている。
彼等の方は「こんな話は聞いていない」とでも言いたげだが、たとえ現状が理解できずともここに居てあちら側に立っているだけでセシリアにとっては『敵』でしかない。
オロつく可哀想な彼等にも集まる人々の視線にも、是非とも協力してもらおうではないかと心の中でほくそ笑む。
今ある全てをくみ上げて利用して目的の結果を果たすなんて事、セシリアにとっては得意分野だ。
その上一目見ただけで浅はかさの丸見えなのだから、最早朝飯前である。
「一体誰がこんな忙しい時間帯に通路を通せんぼしているのかと思って来てみれば……おはようございます。リッツさん」
「オ、オルトガン伯爵家の……」
敢えてわざとらしく言えば、こちらを向いた彼の顔が苦痛にでも触れたかのように歪む。
きっとこの前の失態でも思い出しているのだろう。
評判のせいでどうやら商業的打撃もそれなりにはあったらしいからそんな顔になるのも無理はないが、商人ならばもう少し顔色に気を使って然るべきなのではないかとも思う。
一度顔を崩した彼も、流石にマズいと気付いたのか。
すぐに取り繕った笑みでこちらに聞いてくる。
「通せんぼなどとは心外です、むしろ我々を通してくれないのはこの子供たちの方でして」
「つまりご自分たちは不当にこの場に留められている、と?」
「それ以外に何がありましょうか」
そんなやり取りの裏で、おそらく出店参加者だろう。
荷物を引いてやってきた二人組が困ったような顔をした。
しかしそれも、すかさず『警備計画・指揮管理』セクションの生徒が声を掛け、速やかに別の入口への誘導していく。
思えばその辺の分担まではしていなかったが、どうやら臨機応変に立ち回ってくれているようだ。
自ら考え動く彼らに、セシリアも少し嬉しくなる。
が、そんな喜びも、ひとまずは横に置かねばならない。
今は目の前に居るこの邪魔者を、ここから速やかに退場させなければならないのだから。
「さて。先方はそのようにおっしゃっていますが、貴方方はどのような理由でこの方々をここに留めているんです?」
セシリアがそう尋ねれば、まるで示し合わせたかのようにすぐに声が返ってくる。
「彼らにはこの場におけるルール違反が見られましたから、この敷地内での出店許可を出せません。出店者以外の入場は現在制限していますから、彼らを中に居れる訳にはいかないのです」
「それで、その違反とは?」
「『同一団体内で複数人の代表者を立ててそれぞれに応募する』行為です」
「と、いう事ですが?」
言いながらリッツを見据えれば、彼は「あぁ」とわざとらしく言ってみせる。
「もしかしてこの後ろの者達と私が同一団体だとでもいうつもりですか? だとすればそれは勘違いです。この者達とは偶々同じタイミングで入場となった知らぬ者。――お前たちも、そうだよな?」
「え、あ、はい」
「そうです……」
リッツの視線にまるで脅迫でもされたかのように、後ろの馬車の二人が頷く。
言わされた感が甚だしいが、おそらくリッツは「証拠など無いのだから言ったもん勝ちだ」とでも、きっと思っているのだろう。
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