伯爵令嬢・セシリアは、放蕩三昧したいけど。 ~それでもやっぱり許せないモノには容赦なんてする気も無い!~

野菜ばたけ@『祝・聖なれ』二巻制作決定✨

第一章:とある貴族令嬢の、気高く謙虚で聡明なアレ

第1話 『躾』の現場に居合わせた不運 ★



 目の前には、いつかどこかで見たような光景が広がっていた。


 綺麗に整備された芝生、暖かな陽光。

 そして、見下すような笑顔で見下ろす数人の令嬢たちと、尻もちをついて彼女たちを見上げる一人の令嬢。


 前者は高貴の証である『赤』の制服を、後者は『緑』を身に纏っている。

 その色の差から見ても、上下関係の差は歴然だ。



 そんな場所にたまたま通りかかってしまったセシリアは、おそらく不運だったのだろう。

 見つけてしまった瞬間に、ペリドットの瞳を僅かに見開き立ち止まった1人の少女は、ひしひしと面倒事の予感を感じた。


 


 セシリア・オルトガンは、「自分の好きな事以外には、時間を使いたくない」と思っているような人間だ。

 

 例えば、和やかなティータイム。

 例えば、安息な眠り。

 例えば、新たな知識の泉に浸る時間など。


 そういった自由な時間は彼女が生きる上で必要不可欠な物であり、それらを浸食する面倒事は、いっそ憎んでしまいたくなるくらいには大嫌いなのである。



 そんな彼女が、まさかこんな現場に居合わせて喜ぶ筈なんてない。


 しかしそれでも、セシリアはこの件に関わらなくてはならないらしい。


 

 『貴族科』の制服は、否応なしに目立つ色だ。

 おそらくそれと、セシリアの類い稀なら容姿の美しさが、周りに目ざとく彼女の事を見つけさせた。

 

 誰かがどこかで「あ……」と小さく声たのが最初である。

 彼女もまたセシリアと同じく『赤』を身に纏った令嬢だったから、おそらくセシリアの為人を知っているからこその、安堵と期待の息だった。


 そしてそれを皮切りに、まずは彼女に幾人かの視線が集まり、彼女が見るセシリアに視線が移る。

 あとは悪循環だ。

 同じようにセシリアを見る視線は伝播し増殖し、セシリアを知らない筈の人々までもが彼女に注目し始めた。


 退路は綺麗に塞がれた。

 その事実に思わずため息を吐きながら、セシリアは「仕方がないか」と独り言ちる。



 そもそも、だ。

 セシリア自身、対処せねばならないだろうと思っていた。


 本当ならば自分以上の適任者を見つけ出したかった所だが、ザッと辺りを見回しても残念ながら見当たらないのだ。


 その上、貴族だけではなく平民の目があるこの場所でのこの騒動は、どう考えてもよろしくはない。

 

 セシリア・オルトガンは、ここで対処しなければならない。

 伯爵令嬢の『義務』を果たす為に。




「――どなたかと思えば、アンジェリー様ではありませんか」


 セシリアの発したその声は、不安渦巻くその空間に一筋の光を穿つものだ。


「また下級貴族の『躾』をなさっておいでなのでしょうが、このような誰が通るとも知れない場所でお声を荒げる事は、上級貴族の一員としてとしてふさわしい振る舞いとは言えませんね」


 余所行きの笑顔を浮かべながら、セシリアは心の中で密かに「あぁ起き掛けはあくまでもいつもの日常だったのに」と呟いた。





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 当該話数の裏話を更新しました。

 https://kakuyomu.jp/works/16816700428159297487/episodes/16816700428160788823


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