準備に奔走する生徒たち
第64話 アンジェリーの居場所
他のグループがどうなのかはセシリアには知る由も無いが、効率主義なセシリアが所属するこのグループでは何をするかが決まった次にすべきは決まっているも同然だった。
必要作業を洗い出し、それぞれに役割を決める。
その為に、グループをまず大きく4つのセクション分けてみせる。
それぞれのセクションには長を立て、仕切らせる。
そして進捗や問題点などを取り纏めさせ、定期的なセクション間での情報共有を怠らない。
そういった指揮系統を最初に決めたお陰もあってか、動き出しは上々だ。
その証拠に――。
「あのぉー、アンジェリー様は……」
「アンジェリー様いらっしゃいますか?!」
「失礼します。アンジェリー様に用事があるのですが」
「もうっ、何なのよアンタたち!」
アンジェリーが最近特に人気者と化している。
「おぉー……あのアンジェリー嬢の周りに人だかりが」
そう呟きつつセシリアの席までやってきたのはクラウンだ。
確かに彼が驚くのも無理はない。
アンジェリーは入学からこれまで、どこからどう見ても孤立していた。
もっと言えば、意地を張って周りを拒絶していた雰囲気さえあった。
それが今はどうだろう。
人だかりと呼ぶにはたったの3人だ。
人数が少ない気がするが、一見すると邪険にするような声を上げつつもよく見れば話を聞いてやっている。
「他のクラスの人たちが来るのさえ珍しいっていうのに、まさかのアンジェリー嬢目当て……」
「どうなってんの」とレガシーも少し驚いているが、セシリアは全く驚かない。
彼女はやって来た人たちに、見覚えと心当たりがかなりある。
「『貢献課題』関連ですよ。アンジェリー様は『商品管理・陳列』セクションのリーダーですから」
「え、セクション? 何だそれ」
「要は役割毎の班分けですよ。アンジェリー様はその内の一つの責任者なのです」
そう告げると、クラウンが「なるほど……」と頷いているが、レガシーは未だ納得していない。
「いやまぁ上級貴族のアンジェリー様がリーダーやるのは分かるとしても、何であんなにたかられてるわけ……?」
そんな疑問を抱く理由は、セシリアにも理解できる。
それだけ今までのアンジェリーは、評判も悪ければ態度も悪かった。
しかしそれは、少なくともグループ内では大分過去の話である。
「あの方は、偏った思考と頑なな態度こそ褒められたものではありませんでしたが、能力それ自体については元々それなりにある方みたいです」
少なくともバカではない。
もしバカだったらセシリアも、彼女がリーダーになる事に何らかの手を打っていたかもしれない。
が、結果的にその面倒は不要だった。
「確かにみんなで和気あいあいする事はありませんが、ソレだけが必要スキルではありません」
実際に、彼女がみなの頂点という立ち位置を崩さない事により、あのセクションは急速に纏まってスムーズな情報共有が出来ている。
『商品管理・陳列』セクションの仕事内容は、主に寄付によって得られるマーケット商品と当日割引券の引き換え・管理と当日の陳列。
後者は前当日に行うが、前者は3日後には学校内にアナウンスして余暇後から商品の引き換え作業が始まってしまう。
セクションの中では最も早く始動し始めなければならない。
「あのセクションは、所謂学生との窓口です。あそこでもたつけば、私達の課題への期待度が大きく下がる。そうなれば、出品できる商品の量や当日の客足にも影響が出ます」
「え、じゃぁ意外と重要任務なんじゃない?」
「その通りです」
だからこそ、そこの長にはアンジェリーを当てたのだ。
そんな気持ちと共に頷けば、グループそれ自体の運営体制に興味を持ったらしいクラウンが聞いてくる。
「因みに他にはどんなセクションがあるんだ?」
「他には、主に各所との交渉と全体管理を行う『運営』と当日の会場の『警備計画・指揮管理』、そして私たちが学生からの寄付品で出店する『店の運営・会計』です」
そう告げると、彼は「ふぅん」と呟いた後、「で?」とセシリアの方を見る。
「セシリア嬢の担当は?」
「私は『運営』ですね」
「あぁやっぱり」
思わずと言った感じで出てきた彼の相槌に、セシリアは「やっぱり?」と首を傾げた。
すると彼は「だってそうだろう?」と応じる。
「グループでの最高権力だし、周りからの評判に賛否はあるがイメージの悪いアンジェリー嬢じゃなくてセシリア嬢を全体の運営に置くのは至極正しい」
その声に、レガシーにも納得の表情が浮かぶ。
が、セシリアは何も『アンジェリーに全体運営に立たせるわけにはいかないから』とか『最高権力者だから』なんて理由でそこを請け負ったという訳じゃない。
「ただの適材適所です。アンジェリー様にはバリッと全体を締めるような統率力で迅速な対応をしてもらう。私は運営で関係各所と交渉し折り合いをつけて上手くやる。どちらがどちらにより適正があるかという話でしかありません」
そう告げながらアンジェリーの方を見てみると、少し煩わしそうな顔と声で「あぁして」「こうして」と指示をしている彼女が居た。
話し方はぶっきらぼうで、少し「そんな事も言わないといけないの?」と言わんばかりのニュアンスもある。
しかしそれでも、貴族の子であり時には自家でお茶会を主催する事だってあるアンジェリーとは違い、催し物の自ら運営になどまるで縁も無かった平民の彼らにとっては全てが新しくて分からない。
故にすぐさま指示を飛ばすアンジェリーは、間違いなく『必要とされた存在』だった。
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