第65話 律儀すぎる前回議事録
アンジェリーが何だかんだで課題に邁進しているのを、セシリアだってそれほどボーッと眺めている様な時間は無い。
「先日グループ内で詰めた内容の議事録は出来ていますか?」
放課後になり、カフェスペースにセシリア率いる『運営セクション』は集合している。
どうやら他の課題グループの人たちはそれほど時間外の打ち合わせなどはしていないようで、既に授業を終えたゼルゼンにメリア、ユンの三人は既にセシリアの後ろに付き従っている。
が、それでも彼らはグループの部外者である。
あくまでもセシリア達の邪魔はしない。
ただそれぞれにセシリアの身の回りの世話やら護衛やら、黙々と自分の仕事を熟すだけだ。
「出来ています」
そう告げたのは、執事科の制服を着た少年だった。
ハンツ・クライツ子爵子息。
彼はこのセクション内ではもう一人の貴族であり、セシリアを除けばただ一人の貴族でもある。
しかし流石は執事科に行っただけあるという事か、運営作業の補助にあたる前回の議事内容の文字起こしも特に文句なく行ってくれた。
お礼を言って受け取って、中身にざっと目を通す。
(うーん、なるほど。改善の余地が大いにある)
内容が分からない、とまではいかない。
しかし読みにくいのは確かである。
というのも、彼が作った議事録はほぼみんなの会話のまんまなのだ。
話し言葉のままだったり、同じことを別の言葉で言い換えただけだったり。
話が前後したり、雑談が混じってしまったり。
そういう事が、会議中では往々にして起きるものだ。
それを、全体に齟齬なく簡潔明瞭に伝達する為に、後で読んだ時にちゃんとその時の決定事項が分かる様にする為に、議事録というものは存在する。
つまるところ、要点を上手く切り出せていない。
それこそが、この議事録の問題だった。
おそらく彼は、言葉を取りこぼさない様にと慎重になったのだろう。
それが故に、細かく書きすぎている。
それが明瞭さを損なわせている原因だ。
(同じ執事科の生徒といってもやっぱり、ゼルゼンとは違うわね)
そんな風に心の中で独り言ちる。
が、既に実務を
とはいえ、だ。
(どうしようか……)
改善点は大いにある。
これは今後の、このグループでの指針にもなる議事録だ。
直してくれれば今より格段に使いやすくなるだろうし、経験を経て彼自身のスキルも上がる。
しかしセシリアは、教師でもなければ助言を求められていない。
ただの一生徒である今、自分の従者でもない相手にそれを指摘するのはどうなのだろう。
なかなか難しい問題だ。
が、ここでふと思い出した。
この『運営セクション』は全部で4人。
セシリアの他には、このハンツとメイド科所属のノイという少女、そして官吏科所属のランディーだ。
その全てが、あらゆる交渉事や全体管理・トラブル対処などという面倒極まりない最大級の雑用に自ら買って出た、意欲ある人たちだ。
セシリアがこのセクションを選んだ理由は単なる適材適所に従った結果だが、彼らの目にはやる気が見える。
特にハンツに至っては、セクションに分かれて最初の会話で開口一番セシリアに「私は確かに貴族の出ですが、執事科の生徒として頑張ります」と、あくまでも執事の卵としての振る舞いをさせてほしいと釘を刺してきた。
おそらくは、遠回しに「リーダー役をお願いします」と言いたかったのだろう。
そんな彼だ、やる気だけではなく学ぶ意欲もあるだろう。
ならば、きっと。
「では初めに、前回話した内容のおさらいをしましょう」
彼の行動予測を組み立てて、学びたい人が学べる環境をそれとなく作る。
「私たちの課題内容は、フリーマーケット。家にある不要なものや余っている物、手作りしたものなどを持ち寄り売り買いする事で、人々の交流と流通に貢献する事を目的とした取り組みです。商品の価格については市場価格より安い値段を推奨しますが、値付けは出店する方の自己責任の元でつける事が可能とします」
セシリアは赤いペンを手に持った。
読み上げた内容は、議事録そのままではない。
内容を要約しつつ、該当箇所に線を引いたり囲ったり。
しるしを付けつつ進めていく。
「開催場所の第一候補は王都の広場とし、開催期間は3日間。当日の店番については貧民街の方たちを一部雇えるように、王都の責任者に打診していきます」
学校課題である以上、課題内容が決まり次第学校に報告する事になっている。
あまりに非現実的であったり支障があれば学校からストップがかかるが、セシリア達のグループの課題を学校は既に承認済みだ。
それが議事録にも書かれているが、「校外を借りてするなんて、学校だけじゃなくて国の許可が必要なんじゃ?」という疑問の後の「そうだよな」「大丈夫か?」という言葉まで議事録には律儀に書かれている。
が、必要ない文字列だ。
その辺は、全て一足飛びに読み飛ばしていく。
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