第三章:一年生への課題と変わりゆく意識
プロローグ
第44話 ユンを心配する年下の彼
騎士科一年。
その教室は、貴族科とは別棟にある。
昼食後、ユンはセシリアを教室まで送り届けた後にそちらへやってきた。
教室に入るとすぐに「おっ」と、誰かがユンの帰還に気付く。
「お帰り」
「おー、ただいま」
言ってきたのはユンが見知った人間だ。
名を、グレアン。
ユンより4つ年下の平民の少年であり、ユンのクラスメイトでもある。
「学生なのに既にお貴族様の従者っていうのは羨ましいけど、毎回駆り出されるのはちょっと大変そうだよなぁー」
「まぁそれが仕事だしな」
頭の後ろで両手を組んでいる彼は、きっと授業の毎時間終了後に俺がこの教室を出ていかなけばならない事を言っているんだろう。
在学中でも既に誰かに仕えている生徒は必ず、休み時間になる度に主人の所に馳せ参じる。
物理的にもそれが可能である様に、貴族科以外の生徒の授業は10分遅く始まり10分早く終わる様になっている。
だからこそ既に就業中の従者でも授業に無理なく参加する事が出来ているのだ。
この学校は就業中の従者の為の教育の場としてだけじゃなく、まだ自分の従者を持っていない貴族への従者斡旋の場でもあるらしいから、こういう取り組みには余念が無い。
「まぁ慣れればそれほどしんどくもないって。まぁ主にもよるとは思うけど」
そう言って考える。
その点主人のセシリアは安心だ、と。
が、どうやらグレアンはそれこそを気にしていたようだ。
「なぁユン、お前の主人ってあのセシリア・オルトガンだろう?」
「うんまぁそうだけど……あの?」
意味が分からなくてユンが思わず片眉を上げると、グレアンは11歳が15歳に向けるにはそぐわない、何やらとても可哀想なモノをも見るような目を向けてきた。
「お前はいつもそうやって鈍感だからなぁ。あれだろ? ソイツって入学式の日に演説して話題の的になったり、この間も友人令嬢のメイドを口で言い負かしたり、今前は先輩にもって話じゃん!」
明らかにヤバいだろソイツ。
そう言った彼は、多分ユンが能天気だから気付いてないか現状に耐えてるかのどちらかだとでも思っているんだろう。
が、ユンとしてはそのどちらも被っているつもりは無い。
「そりゃぁ俺だって変な奴のいう事なら聞きたくはないし、ストレスだって溜まるだろうし、それ以前にそんな奴の従者なんて務まる気もしなければ務める気もないけどな」
そもそもユンは、割と好き嫌いがはっきりとしたタイプの人間だ。
だから嫌いな奴は毛嫌いと言っていいほど嫌いになるし、態度だって繕える筈がない。
それでもこうしてやっていけているのは、ユンがその場所を気に入っているからに他ならない。
「セシリア様は理不尽な事は言わない主義だし、俺の作法的な粗相にも公の場でさえなければ寛容だし。まぁある意味頑固なところはあるかもしれないけど、それだってあの人なりの芯が一本通ってるし」
そういう納得の仕方が出来るからこそ、公の場で遜る事やセシリアの為の日々の訓練にも上を目指して取り組める。
「まぁ『この人の為なら』って思えないと自分の体を張って護る仕事なんて出来ないんもんだ」
そんな言葉で、ユンは暗に「セシリアは俺がそう思える相手なんだ」とグレアンに言った。
が、彼はまだ納得できないようで。
「ふぅーん、何か良く分かんねぇな」
「まぁそれはお前がまだ主を見つけてないからってのもあるんだろうけど……ソレよりお前、貴族の名前を出すときにその口調は流石にどうかと俺でも思うぞ」
「いやまぁだって、貴族ってなんかお高く留まってて腹立つだろ。そもそも俺、金の為に兵士職目指してるだけだし」
「それにしたって、こういう開けた場所で話すならもうちょっと気にしないと。もし今の話が貴族や信奉者系の従者に聞かれていたら、血祭りにあげられるぞ」
ユンの忠告も全く気にしない様子のグレアンに少し脅し文句を挟むと、彼は鼻で笑って言う。
「何ソレ。年下だからって大袈裟に言って怖がらせようとしたって――」
「いやマジで」
「え……マジで?」
驚くグレアンに、ユンは神妙な感じで頷いた。
確かに脅しはしたけれど、ユンとしては何一つ大袈裟に言ったつもりなど無い。
だって奴らには。
「貴族達には『不敬罪』っていう伝家の宝刀があるからな。気を付けろ? 俺なんか七歳の時にそれで実際に、初対面の外の貴族に殺されそうになったからな」
「マジかよ」
「マジだよ……」
そこまで言えば、流石に少しは危機感を覚えたらしい。
彼も神妙な顔になる。
だからユンは言ってやった。
「お互いに、気を付けようぜ。もうすぐ『貢献課題』、始まるんだし」
と。
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