第二回、王城担当者との話し合い(タジタジ)
第95話 やはり待っていたあの人は
進捗会議の翌日は、前々から予定していた通り王城での打ち合わせ日だった。
こちらのメンバーは、前回と同じくセシリアとハンツ、ノイにランディーの4人。
王城勤めの人用の出入り口から中に入ったところまでは、依然と同じだったのだが。
「あっ、やぁ会えたね」
そこに居たのは銀の長髪を下で一つにくくってる紫の瞳の少年だ。
学校の赤服に身を包み、実に良い笑顔で手を振りつつ歩いてくる。
その人物の登場に、セシリア以外の三人はギョッと目を剥いていた。
対するセシリアはというと。
「……一体何をしているんですか、殿下」
深くため息を吐いた彼女は、思わずといった感じで額に手を当てて呆れる。
そう、そこに居たのは、セシリアと同じクラスのアリティー・プレリリアス第二王子、その人だ。
「『何をしてる』とは酷いな。私はただ、自分の家に遊びに来た友人を歓迎してるだけなのに」
「友人を歓迎するのにわざわざ王城門までやってくる王子が一体どこに居るんですか。それに私、今日は遊びに来たわけではありませんしね」
「相変わらずつれないなぁ、君と私の仲なのに」
「ただのクラスメートの仲しか無いですからね?」
全くもう、油断も隙もあったのもじゃない。
こんな場所で変な噂が立ってしまえば、王城内外に立ちどころに噂が回る事だろう。
おそらくは『二年前からの努力が実を結んだ』という形で。
が、おそらく彼もこの場のやり取りでセシリアの隣を勝ち取れるとは思っていない。
笑いながら「惜しいなぁ」なんて言っている。
と、ここで3人分の視線をひしひしと感じた。
振り返れば、そこには恐縮した様子のハンツと驚いた様子のランディー、そして顔を真っ赤にしてアワアワとするノイの姿が存在している。
「セ、セシリア様……凄い凄いとは思っていたけど、まさか殿下のそのようなご関係で……?」
その反応に、セシリアはジト目で「殿下」と呼んだ。
「どうするんです。私が即座に否定したにも関わらず、単純なノイが変な勘違いをしてしまったではありませんか」
おそらくノイは、先程の私の返しは全く耳に入らなかったのだろう。
その責任の所在をアリティーの方に求めれば、彼は「おっと」と両手を上げて早々に降参の意を示す。
「これはマズいな。私は確かにセシリア嬢に恋慕を抱いているけれど、その事でセシリア嬢に迷惑を掛けたいとは思っていない」
そこまで言うと、彼は一歩ノイの方へと足を踏み出し「ノイ……と言ったかな?」とその顔を覗き込む。
「セシリア嬢には一度こっぴどく振られていてね。私はそれでも彼女の事を好いているけど、この事で迷惑を掛けてこれ以上彼女に嫌われたくない。出来れば『私たちが恋仲だ』という間違った認識だけは持たないで頂きたいな」
「は、はいぃーっ!」
これでいて、アリティーはそれなりの美形である。
そんな相手、しかも王子に顔を覗かれてしまえば、テンパッているノイが尚テンパるのは想像に難くないだろう。
しかしそんなアリティーに、セシリアはまた苦言を挟まずにはいられない。
「本当に『嫌われたくない』と思ってくださっているなら、自身の恋情を豪語しないで頂きたいのですけれど」
「でも、そのくらいの事なら既に社交界中が知っている。今更隠す事でもない」
「今更言う事でも無いです」
「言う事でもあるさ。だってセシリア嬢、最近ちょっと楽しそうだし、その楽しい課題でこの男たちと行動を共にしているんだろう?」
「はぁ?」
あまりに斜め上だったその物言いに、流石のセシリアも思わず素っ頓狂な声を上げた。
すると、それに「あのぉ」とハンツがそろそろ手を上げる。
「殿下、発言をしても……?」
「あぁ良いよ」
「確かにセシリア様の手腕には尊敬の念を抱いていますが、それ以上の感情はありませんので、どうかご安心頂ければと」
その声からは「殿下にロックオンされては堪らない」という気持ちが漏れ出てしまっている。
確かに子爵子息、それも貴族家の執事としての未来を思い描いている人間が殿下に目を付けられたりしたら、溜まったものではないだろう。
その保身を咎める気は最初から無い。
だから代わりに、殿下にそろそろこう告げる。
「殿下、未来の臣下か使用人になるかもしれない人間で遊んで、そろそろ満足したのではありません?」
「いやぁ、これでも一応半分は、本気の牽制だったんだけど」
「では残りの半分は、やはり遊んでいたんですね?」
セシリアが、わざとらしく深い深いため息をついて歩き出す。
すると流石のアリティーも「この辺が引き時だ」と分かったようだ。
「ゴメンゴメン。最近セシリア嬢が構ってくれなくなったから、つい」
などと言いつつ、セシリアの隣に並んで歩いた。
後ろには、頭から今にも湯気が出そうなくらい顔が真っ赤になったノイと、ホッと胸を撫で下ろしたハンツが居る。
最後尾のランディーが「若いねぇ~」などと、さも老人であるかのような言葉をはするが、彼とて別に学校では年長というだけで、年齢的にはまだ20代前半だ。
言う程若くない訳じゃない。
一方セシリアは、そんな後ろの雰囲気を全て気付かなかった事にして、隣の彼に問いかける。
「それで、殿下。何故今日は制服姿なのです? 私達は学校の用事で来ているからですが、殿下にとってはココは『自宅』なんでしょう?」
いつもの通り王子装束でいればいいのに。
暗にそう尋ねると、彼は少し楽し気に「あぁそれはね」と微笑んだ。
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