第96話 メンバー4人+1人で臨む二回目会議



 セシリア達は、その後前回と同じ会議室に通された。

 前と同じく、セシリア、ハンツ、ノイ、ランディーの順番で着席し、向かい側はまだ空席だ。


 が、一つだけ前回と違う所がある。


「……殿下、本当にここに居るつもりですか?」


 向かい合う両者の間、一番奥でありセシリアの隣となる席に、赤服の彼の姿がある。

 

「後学の為の見学さ。ちゃんとお父様の許可も得ている。心配する事はないよ」


 そう言いながら飄々と笑ってくる彼に、心の中で「心配と言うか……まぁ、邪魔にならないか心配だけど」なんて呟くと、もしかしたらそんな空気を少なからず察したのかもしれない。


 前の事を知ってか知らずか、「でも私が同席する事で、君たちが軽んじられる事はなくなるよ」などと言ってくる。


 そんな彼を横目で見つつ、セシリアは「まぁそれはそうだろうな」と独り言ちた。

 ただの言い訳だったのか、それとも一応セシリアが嫌な気持ちにならないようにと考慮してくれたのか。

 丁度半々な気がするので、悪い気はしないがいい気もしない。


「ともあれ、です。これはあくまでも私たちの課題です。お願いですから、私達にこれ以上の援護はしないでくださいね?」

「分かってるよ、こんな事でセシリア嬢に嫌われてしまっては敵わないし」

 

 そんな会話をしていると、扉がコンコンとノックされた。



 扉が開き、入ってきたのは2人である。

 前回出ていたジキルという担当者の姿はなく、別の若い男と、もう一人は壮年の男。

 セシリアはその内の一人――後者の方に見覚えがあった。


 彼らがアリティーへの挨拶を済ませた段階で、セシリアが彼に声を掛ける。


「よろしくお願いします、イングランド子爵」

「――流石はオルトガン伯爵家の娘さんだ。一度挨拶をしたくらいの間柄だったと思うが」


 まさか覚えてくれていたとは。

 驚きつつも少し嬉しそうにそう言われ、セシリアは「うちの兄と子爵のお子さんが仲良くさせてもらっていますから」と言葉を返す。

 すると彼も「あぁ彼からも挨拶をしてもらった事がある」と言いつつ、席に座って微笑んだ。


 少し場が和やかになったところで、一つ疑問をぶつけてみる。


「今回は、ジキル様ではないのですね?」

「あぁ、彼は少し勤務態度に難があってね。監督不行き届きという事で、上の人間共々短期間の降格処分を受けている。そういう事情もあって、担当者は私とこのムルドアが務めさせていただく」

「ムルドアです、よろしくお願いいたします」


 彼の言葉に合わせて、ムルドアと紹介された若い男がセシリア達に頭を下げる。

 真面目が服を着て歩いている様な雰囲気を醸し出している彼は、セシリアが改めて行ったそれぞれの紹介とそれに合わせて頭を下げる面々一人一人にもちゃんと頭を下げていた。


(どうやら彼は、前任とは正反対の人種のようね)


 そんな風に考えながら、過ぎ去った男の残像は、本格的に脇へと置いた。

 

 そして。


「さて、では始めよう」


 イングランド子爵のその一言で、場の空気が緊張感で張り詰めた。

 チラリと見れば、ハンツもノイもランディーも、ムルドアさえも、緊張に顔を強張らせている。


 この場で平常運転なのは、子爵とただの傍観者であるアリティーくらいなものである。


(――流石は子爵)


 セシリアは、彼が齎したその変化を心の中で称賛した。


 こういう風に場の空気感を操れる人間は、それだけで『強い』。

 

 本人にその気があろうが無かろうが、そういう人は強い存在感を放つものであり、例え仕切るような立場に居なくても、そういう人が発する鶴の一声が場を動かす……などという事が往々にしてある。


(そう思うと、社交界と会議の席はよく似ているかもしれない)


 が、なればこそ、セシリアだって負けていられない。

 

 セシリアの中で今一つ、何かのスイッチがカチリと入った。

 背筋を伸ばして肩の力を抜き、顔にはふわりと笑みを浮かべ、子爵を見据えてこう告げる。


「はい、よろしくお願いします子爵」


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