第146話 貴族の密談は静かに燃える怒りと共に
彼女のこれは、つまるところ「これは私達全員の課題なのだから、貴女が一人で責任をしょい込む必要はないのよ」という意味だだ。
不器用過ぎる彼女の言葉と当初からの変わりように、思わず笑ってしまうのは仕方がない。
当初、アンジェリーはこの課題に乗り気じゃなかった。
それはおそらくセシリアやキャシーとの確執もあったのだろうが、それ以上に課題を「つまらない消化試合で難しくもなんともない」と思っていたからだと思う。
そんな彼女を挑発し、上手く乗せてここまで来た。
しかし挑発に乗って以降の彼女の行いは、誰でもない彼女自身の功績だ。
周りを采配し、助け、慕われた彼女は、彼女自身が作ったものだ。
「たった三か月前の事なのに、何だかひどく懐かしいですね」
「……フンッ、老成するにはまだ早いわ。それに、まだ終わった訳でもない」
「ふふふっ、たしかにそうですね」
アンジェリーの言う通り、まだフリーマーケットは終わっていない。
あと半日を乗り切って、その後にはこの場の撤収作業に雇った貧民たちへの報酬の支給、孤児院への寄付、レポート作成。
もしかしたら王城に呼び出される事もあるかもしれない。
間違いなく、残り1か月ほどの学校生活義務期間は忙しくなる事だろう。
それに。
「ねぇ」
「何ですか?」
「貴女の事だから、あの邪魔者をそのまま放置するつもりもないのでしょう?」
「報いは受けてもらう事になるでしょうね。まぁ私が何かする前に実行犯の方には手が下されるかもしれませんが。……どうするか、知りたいですか?」
セシリアがそう聞いたのは、アンジェリーが『革新派』派閥の貴族だからだ。
しかし予想に反して彼女は「はぁ?」を片眉を吊り上げた。
「何故私がそんな事を気にしなければならないのよ」
「貴女自身というよりも、御父上辺りから探りを入れるように言われているかと思いまして」
「まぁそれも無いではないけど」
そう言って、彼女は挑戦的に笑った。
「我が家はこの件に100パーセント関わっていないし、上の権威が薄れた所で我が家にも派閥上層部に食い込むチャンスが生まれるだけ。それにこれはあくまでも学校の課題なのよ? 学生のする事に部外者がチャチャを入れる事自体が間違っているとは思わない?」
前半は、とても貴族らしい考えだ。
しかしセシリアが注力したのは後半だった。
アンジェリーも少なからず、大人げない横やりに腹を立てていたらしい。
そう悟り、同時にセシリアの頭の中ではとあるロジックが急速に組み上げられていく。
「そうですか。ではまぁ今回の首謀者には、少なからず恥を掻いてもらう事にしましょう」
セシリアの口角がゆっくりと上がった。
言わずもがな、セシリアだって彼等には腹を立てている。
自分たちの努力を横から突き崩すような再三の手出しに、果てにはユンまで害されて、セシリアは今静かに怒髪天なのだ。
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