第78話 ちょっとした自己紹介、そして目的の場所へ



 信頼する彼らの言葉に、セシリアは眉をハの字に下げる。


「まさかそんな……」


 おそらくここが街中で周りに居るのが町民であるという事もあり、セシリアの外面のガードが些か緩くなっているようだ。

 愕然とした顔と声色を隠せていないセシリアに、ランディーとノイは少し驚きユンは笑う。

 ゼルゼンは、どうにか堪える事は叶ったがその内情はユンと同じだ。


「セシリア様。どちらにしろ綺麗に保たれた髪や肌、隠しようもない育ちの良さなどはどうしようもありません。今回は諦める他ないでしょう。ですから私達も、今日はセシリア様を敬称呼びさせていただく事を、ご了承いただければと」

「まぁそれで寄って来る面倒事をどうにかする為に、俺とゼルゼンがついてきてるわけだしな」


 ゼルゼンに続き、ユンもそう口を挟む。

 

 こうなれば、セシリアも了承せざるを得なかった。


「……仕方がありません、分かりました」


 そんな話をしていると、ちょうど待ち合わせの時間頃に最後の一人が現れる。


「あ、俺が最後か。すみません、お待たせして」


 やって来たハンツの第一声に、セシリアは気を取り直し「いいえ」とにこやかに答える。


「到着が遅れてしまったので『探すのにまで手間取ったらどうしよう』と思っていたのですが、すぐに見つかって良かったです」


 そう言った彼は、この後セシリアに無意識の内に追い打ちをかける。


「遠目に見ても、セシリア様は良い目印で助かりました」


 その言葉に、ユンは思わずプッと吹き出す。

 

「そうですか、目立っていましたか……」

「? はい。セシリア様ですからね」


 良く分からず止めを刺したハンツの声に、ノイとランディーはハラハラとした雰囲気になる。


 が、ゼルゼンはその程度の事でセシリアが腹を立てる事はないと知っている。

 あまつさえここには不特定多数の人間も居るのだから、幾ら外面が薄いと言ってもいじけて見せるまで気を抜いている筈は無い。


 そんな確信があるからこそ、彼はセシリアに特に配慮する事もなく呼びかける。


「セシリア様、皆さまお集まりになりましたので、私達の自己紹介をさせていただきたく思うのですが」

「あ、そうね。では移動する前に軽く紹介させてください」


 そう言って、セシリアは自分の右後ろをまず示す。


「こちらが私付きの筆頭執事・ゼルゼン。学校では執事科の一年に所属していますし、私が10歳の年から社交場でも執事としての職務を全うしておりますので、ハンツさんとは面識があるかもしれませんね」

「皆さま、本日はセシリア様の執事としてお側に控えさせていただきます。皆様のお邪魔にはなりませんので、どうかよろしくお願いします」


 私の紹介に合わせてゼルゼンが、綺麗な執事の礼を取る。

 見た目は町民そのものなのに、そういう所作をしているとやはり際立って執事然として見えるのが不思議なところだ。


「続いてこちらが、私付きの護衛騎士・ユン。同じく騎士科の一年生で、今年から私についてくれています。話し方や所作についてはまだ些かボロが出る事もありますが、護衛能力だけはおりがみ付きですので少々ご容赦いただければと思います」

「今日一日よろしくな、みんな」


 ゼルゼンとは対照的に、軽い一言で済ませてしまう辺りがどうにもユンらしい。

 しかしその後すぐに爵位持ちのハンツの事を思い出したのだろう。

 「あ、やべっ」と言いたげな顔になる。


 が、あまりに分かり易すぎるその顔に、ハンツは「大丈夫だ」と言って笑った。


「私は今回、この件については一貫して『執事科の生徒』として振る舞います。つまり貴方とは使用人仲間のようなものです。――まぁ勿論、他の場では私にも立場がありますから、そうも言っていられませんが」

「そう言ってもらえるとありがたい」


 ちょっとホッとしたようにユンが言った。

 すると次は自分の番だと言いたげに、ハンツはコホンと一つ咳払いをする。


「私も今日は、護衛騎士を一人連れてきています。目的地が目的地ですし」

「ハンツ様の護衛として随行させていただきます、ベートと申します」

「よろしくお願いしますね、ベートさん」

「はっ」


 セシリアの呼びかけに、彼はピシッと敬礼をした。

 なるほどどうやら職務にかなり忠実なタイプであるらしい。



 と、とりあえず今回の新参ものの自己紹介は一通り終わった。

 となれば、早速次だ。

 

「では行きましょう。私たちの貢献課題、その人員の勧誘に」


 こうしてセシリア達一行は、今日の本題へと乗り出した。


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