第46話 セシリアの『貢献課題』は始まる前から修羅場の香り
先に気になる予定があると、どうしても時間は早く過ぎるものだ。
昼休みを挟んだ授業。
セシリアは一人、例の『貢献課題』で指定された場所へと行く。
レガシーにはああ言ったが、セシリアだって誰が居るかも完全に分からない場所に行く事は、少なからず緊張する。
しかしそれでもそんな素振りを全く見せないのが、セシリア・クオリティー。
因みに途中までの道のりを昼ご飯を一緒に食べたテレーサと一緒に歩いてた所、チラッとだがレガシーを見た。
実に挙動不審だったが彼なりに頑張っている最中のようだったから敢えて声は掛けなかったけど、少し顔色が悪かったからちょっと不安ではある。
確かクラウンが、「以前レガシーが無理して人ごみの中やってきた時ははた目から見てもかなりヤバい状態だったぞ」と言っていた。
それも2年も前の事なのだけど、今更ながらにそんな事を思い出してしまって猶更、彼の事が心配になってきた。
(って、いけない、いけない。あまり人にばかりかまけて自分がこけたんじゃぁちょっと恥ずかしすぎるよね)
そう思い、一度軽く息を吐いて考える。
そういえば、さっきからずっと何かに違和感を感じていたんだけど何が違うのかと思えば今日は一人なのだと気付く。
いつもはどこを歩くにも、クラウンたち従者が付いている。
だけど今日は、生徒の彼らもセシリアと同じく『貢献課題』に出向いている。
そのお陰でセシリアは、今日が初の校内独り歩きだ。
彼等は基本的に、用事が無い限り空気を装ってくれている。
だからちょっと居ない所で大丈夫だろうと半ば高を括っていたが、実際にはそんな事は無いらしい。
(うーん。独り歩きもちょっと新鮮ではあるんだけど、やっぱり居てくれた方がしっくりくるかな)
となれば、帰ったら早速「いつもありがとう」などと言っておいた方が良いかもしれない。
……否、辞めておこう。
多分ゼルゼンからは無言で熱を測られるし、メリアはいつもの無表情で凝視してくるような気がするし、ユンに至っては「どうした? 腹でも壊したか?」とか言いそうに決まってる。
そんな事を考えながら歩いていたので、指定場所まではそれほど時間はかからなかった。
セシリアの指定場所は、とある空き教室。
中にはどうやら中庭やテラスなどの屋外だったりする人も居るらしいが、どっちが良いのかは一概には言い切れない。
じっくりと腰を据えて話すなら、きっと屋内の適当な広さの小部屋辺りが良いだろう。
しかし沈黙で気まずくなってしまうようなら、屋外の方が外の音があるだけマシだ。
そしてセシリアの場合、この『想定される人数よりも余程容量が大きな個室』という環境が吉と出るか凶と出るかは、とりあえずこの扉を開けば分かる。
何だか激しく嫌な予感がしてしまうのは、ただの被害妄想か。
それとも散々面倒事に巻き込まれてきたせいで培われた嗅覚か。
「前者だと良いなぁ」と願いながら開けた扉は、セシリアを――いとも簡単に裏切った。
扉の向こうにあったのは、空気の凍った世界だった。
その原因はすぐに分かる。
空き教室だからなのか。
室内には余分な机や椅子などは無く、だだっ広い部屋のど真ん中に18人分の机と椅子が取って付けたかの様に置かれている。
見た所席の指定は無いらしいが、問題は既に過半数以上の人影があるにも関わらず着席密度が激しく偏っている事。
しかもそれがこの空気が凍てついている原因にも直結しているんだから笑えない。
セシリアは、誰にも気付かれないような小ささでまずはため息を一つ吐いた。
その間に『最良』を頭の中で組み立てて、その結果被る面倒に今度は心の中でため息を吐く。
面倒だからやりたくない。
しかし今後の作業効率を考えれば、間違いなくそのいばらの道を行くのが正しい。
要は険しい最短距離を行くか、平坦な遠回りをするかという話だが。
(遠回りなんて私の主義に反するわ)
それでも最短距離が進行不能ならば諦められる。
が、そうじゃないという所がネックと言えよう。
「あの、お隣座っても宜しいですか? ――アンジェリー様」
「嫌よ別の所に行って」
結局いばらの道――アンジェリーの真隣りの席を選択したセシリアは、しかし彼女ににべも無くあしらわれる。
しかしセシリアとしては、彼女に無視される可能性もあると思っていた。
そうなった場合別の策を考えなければと思っていたが、どうやらその必要はないようだ。
あの件以降幾ら挨拶をしても無視を決め込んでいた彼女の中で一体どんな変化があったのかは知らないが、セシリアとしては会話になるだけ好都合だ。
「でもほら、おそらく私もアンジェリー様も、他の方々からしたら腫物のようなものですし。私たちが別の所に座ったら、他の方のご迷惑になりますから」
「何ソレ喧嘩売ってるの?! っていうか、全部アンタのせいじゃない! あぁあと、あそこのヤツのせいね!!」
後半部分を特に大声で言ったあたり、おそらく対角辺りに座るキャシー・カロメラへの牽制だろう。
案の定、本来気の弱い彼女はビクッと肩を震わせるが、そんな彼女にセシリアは目で「大丈夫だから」と告げておく。
お陰で少し落ち着いたようだし、幸い彼女の周りに座っている子達はキャシーの味方のようだから、あちらのフォローはあちらでしてもらう事にしてセシリアはこちらに集中する。
「それにしても奇遇ですね。まさか入学式の件の当事者たちが一堂に会するなんて」
「最悪よ」
「まぁそうと言えなくもないですが、これはチャンスでもありますよ?」
「――何ですって?」
「チャンスだと言ったのですよ」
アンジェリーの怪訝そうな声にセシリアは、社交の仮面をガン被りした状態でニコリと笑った。
――さぁ、まだ課題なんて始まってもいないけど、さっそくセシリアの踏ん張りどころだ。
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