余暇明け直前、やる気に満ちた課題部屋

第92話 余暇明け直前、セクション代表者の進捗会議



 優雅な休日というものは、すぐに終わってしまうものだ。

 王都邸で2週間の時を過ごし、セシリアは既に学校の寮へと戻ってきている。


 余暇はまだ6日ほど残っているが、余暇明けから他の役割の者たちも本格的に『貢献課題』について動き出すため、その準備に忙しい。



 今日は、予定していた各セクションの代表者が2人ずつ。

 グループ内の全ての貴族生徒が、例の部屋の一角でひざを突き合わせ、一つの机を囲んでいた。


「それでは進捗会議を始めましょう」


 机の上で手を重ね、セシリアは微笑み交じりにそう告げる。

 その号令に逆らう者は一人も居ない。


「じゃぁまずは、運営から報告を。余暇の間に貧民街の代表者との接触に成功し、当初の条件での協力を取り付けました。詳しい会談の内容についてはお配りしている議事録の写しをご覧ください」


 言葉に誘導されるように、皆が手元の資料に目を落とす。


「現在は彼に協力者を募ってもらっています。ちょっとばかり慎重すぎる方ですが、一度やると決めたならきっちりとやってくれるでしょう。勿論私達でも手伝ってくれる子達の面接は一人一人する予定ですが、あちらでもまともな人選をしてくれると思いますので、その点はご安心ください」


 背筋を伸ばし堂々と、セシリアは参加者たちに告げていた。

 するとそれにフンッと鼻を鳴らしたのはアンジェリーだ。


「そこまで彼を信頼する根拠は何なの?」

「実際に会って話して得た印象ですよ。その辺の見極めも、直接出向いて交渉する理由に含まれていましたから」

「その慧眼が節穴でなければ良いけれど」

「万が一そんな事態になってしまったら、皆に泣いて謝るしかありませんね」


 彼女の言葉は傍から聞くと、喧嘩を売っている様にしか聞こえない。

 が、彼女の表情に強がりや照れの感情を見て同じく軽口を返す。


 すると彼女は何とも苦そうな顔になった。


「……とてもじゃないけど泣いている貴女など想像する事が出来ないわ」

「あらそれは光栄ですね。女性はいつも背筋を伸ばしてしゃんと立っていなければ」


 そんなやり取りをするリーダー格二人に、周りの人間も小さくクスリと笑っている。


 もちろんそれは「セシリアが彼女の言葉を明確に軽口だと思っている事を態度から察せられているから」というのもあるかもしれないが、それ以上に彼女自身や彼女に対する周りの意識も、ちょっとずつ変わってきているのかもしれない。


 そんな事を思いながら、ちょうど良いので次の話の矛先をアンジェリーの方へと向ける。


「それで、商品管理・陳列セクションの方はどうですか?」

「うちは今、寄付された商品の管理体制と寄付者への対応手順の詰めの最終段階。予定通り余暇明けから募集を掛けられるわ」

「分かりました。もし想定外の事が起きた時にはこまめに連絡を」


 特に寄付者を募り物品を集める事は、この試みの一つの肝だ。

 もしここで不備や不測の事態が起きれば、直接的に寄付者の数に影響するだろう。

 周りはみんな「少しの労力で起きるラッキー」を目当てに来るのだろうから、その満足感を邪魔するのは非常に宜しくない。


 もし懸念点があるのなら、スケジュールよりもその解決が優先だ。

 そうできるように、大っぴらに「いつから募集を開始する」という話をまだ周りにしていないのである。


 そしてそれを、アンジェリーもきちんと分かっているようだ。

 「言われなくとも」と仏頂面で答えた彼女にセシリアはコクリと頷いて、次へとまた会話を投げる。


「では次、警備計画・指揮管理はどうですか?」

「はい。一回目の王城側との会談で会場が王都の広場だと決まりましたので、人員の配置とシフト例を考え、現在必要人数の割り出しをしています。こちらも余暇明けには騎士科の生徒に追加要員の募集を掛けられるかと」


 そう告げたのは、騎士科に所属する男子生徒だ。


 紺色の髪にを短髪に纏めた、額に小さな切り傷の跡がある男で、確か二つある騎士科クラスの内ユンとは違うクラスに属する者の筈だ。

 寡黙な印象が先行するが、その実セクションでの仕事ぶりを見ていると冷静だからこそ受ける印象のようにも思える。


「追加要員の選定基準はどのように?」

「希望者の中から協調性と実力を鑑みて行います。いざという時にチーム戦が出来なければ警備としては不十分だと思いますから」

「そうですね、それが良いでしょう」


 彼の声に頷いて、セシリアは残った一つに声を掛ける。


「では店運営・会計は?」

「まず、広場内の店配置と通路の確保案の作成が完了しました。皆さんに見ていただきたく」


 商人科の女生徒がそう言って、併せてキャシーが参加者たちに案を配る。


「広場への出入り口は4つとも有効活用し、真ん中の噴水広場を休憩場に。同セクションの生徒たちがそれぞれの家に話を通してテーブルや椅子を当日に貸してもらう許可を取っています」

「なるほど、休憩場の事は全く考えていませんでした……」


 彼女の声にそう言葉を漏らしたのは、セシリアの隣に座るハンツである。

 すると彼女はフッと微笑んだ。


「歩き回ると疲れます。当日の混雑を考えれば猶更でしょうから、休憩させる事によって客を逃がさない・途中で帰らせない効果を生めると思っています」


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