第21話 相容れない二人 ★
因みに何を隠そうその内の一人が、伯爵家のセシリアである。
しかし先ほども言った通り、セシリアのように「分かる授業で暇すぎるけど、それを顔に出していない」という状況の人間は、誰一人として存在しない。
伯爵家のもう一人、入学式の日にひと悶着あった同級生・アンジェリーはあからさまに「飽きた」という顔をしてるし、昼食を一緒に取った侯爵令嬢・テレーサは、知っている内容でもセシリアのような「フリ」ではなく素で真剣に授業を聞いている。
もう一人の侯爵家の少年は眉間にしわを寄せながら黒板とにらめっこしているから、もしかしたら授業がちょっと難しいのかもしれない。
そして最後に第二王子はというと、彼に至っては「もう知ってるし」という態度を隠そうともしていない。
そんな彼を見つけてしまい、セシリアは内心で少し呆れてしまう。
(――まぁ確かに彼ならば、色々と問題ないんだろうけど)
彼女がそう思ったのは、彼が多少不真面目にしたところで「第二王子」という圧倒的上位の立場に守られるだろうと容易に想像が付くからである。
貴族家の子女なら未だしも、一国の王子となれば最高権力と直結だ。
教師から嫌がらせ紛いの教育を受ける事も無いだろう。
(まったくもって、羨ましい)
思わずそう考える。
しかし。もしセシリアが実際にその振る舞いが許される立場を手に入れたとしても、彼のようにはならないだろう。
セシリアは、「権力とは領地と領民の為にこそ使うべきものだ」という一種の信念を持っている。
そんな彼女が「領地の発展に関係ない事」、つまり完全に私事である『サボり』なんてものの為に権力を利用するなんてことは、絶対にありえない。
そこがある意味セシリアの誠実なところであり、頑固なところ。
そして何より「便利な力なんだから別に使えば良いじゃない。むしろ有効に使うべきだよ」という思想の第二王子とは絶対に相容れないところだった。
そんな彼を、セシリアはチラリと見やる。
するとその視線を感じたのか、潔いくらい授業に興味がない顔を窓の外へと向けていた彼が、絶妙なタイミングでこちらを向いた。
そのお陰で、二人の視線は中間地点の空中で意図せずかち合ってしまう。
そして。
(――巻き込まないでよ)
爽やかな笑顔を浮かべヒラヒラと手を振ってきた彼に、セシリアは思わず内心で嫌そうな顔になる。
この第二王子の事ならば、セシリアはそれなりに知っている。
だから敢えて断言しよう。
これは間違いなく、彼の「ちょっと困らせてやろう」という意志だ。
幾ら笑顔で隠しても、からかい交じりの喜色がその目に滲んでいるのだから、分からない方がおかしい。
この相容れない男が実は、先ほどセシリアが楽しみにしていた「放課後のお茶会」の参加メンバーの一人だというのだから、本当に困ったものである。
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当該話数の裏話を更新しました。
https://kakuyomu.jp/works/16816700428159297487/episodes/16816700428544824038
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