誰も近寄れない問題メンツのティータイム

第20話 今年の貴族科は当たり年



 貴族の子女たちは、ここに来るまでに家庭教師をつけ家で勉学を嗜んでからこの学校に入学する者が多い。


 殊貴族科に入る生徒たちは、将来は家の跡取りやそう言った人間に嫁ぐ者が大半だ。

 その為このクラスの生徒たちは、特に高い確率でそういった教育を事前に受けてきているのである。



 しかしそれは、あくまでも『嗜む』程度であるのが普通だ。


 例えば、算術ならば「四則演算」は出来るものの「じゃぁ実務が出来るレベルなのか」と言えばまだまだであり、現代語に関しては読み書きは出来るものの「じゃぁ本を一冊読めるのか」と言われれば辞書片手に苦心するだろう。


 その為に、子女たちは授業を受ける。



 今日の5限目の授業科目は、現代語となっていた。


 殊貴族に関しては、この科目を侮る事など許されない。


 というのも社交場への出欠確認は、基本的に手紙を通じて行われる。

 その為、物の読み書きは貴族にとっては必須事項、最低限の必要スキルなのである。


 その為「将来手紙の意図を読み違え要らぬトラブルを呼び込まない為にも」と、生徒たちは頑張って勉強しなければならないと、少なからずみんな親にそう言い含められている筈であるし、学校もこの科目には授業時間をかなり割いたカリキュラムを作っている。

  


 そんな中セシリアはというと、他の授業と同様に真面目な姿勢で教壇に立つ教師を見ながらノートきちんと取っていた。


 見た目は、絵にかいたような勤勉な生徒のソレである。

 しかしその実、彼女が考えている事と言えば。


(放課後のお茶会、楽しみね)


 これだった。



 何せセシリア、知識に関してのみで言えば「この学校では最早教わる事など何もない」と言ってもいいくらいには様々な知識を習得済みだ。


 現代語、中でも今やっている「手紙における挨拶の常套句」に関しては知っているどころか実用レベルに達しているし、むしろまるで息を吸うように人や季節などによってアレンジするという上級テクニックだってできる。

 しかもそれを、本来ならまだ親について社交場に顔を出すだけの12歳という年齢で既に実用しているのだから中々すごい。


 つまりセシリアからすると、これらは全て、否、学校で教わる事のほとんどはもう『今更』でしかないのである。



 しかしそれでも、彼女はこうして勤勉を装うと決めていた。

 理由は単純明快だ。


(だって不真面目のせいで教師に目を付けられる事で説教を受けたり、度々「問題を解いてみろ」と指名されるのも嫌だし)


 早い話が、彼女は面倒を嫌っている。


 そしてそれは、「『知ってることばっかり教えられてつまらない』という気持ちはあるけれど、面倒よりは我慢する方がまだマシだ」と思えるくらいには嫌な事らしかった。



 しかし「勤勉を装う」という彼女の選択は、この教室内においてかなりイレギュラーだと言っていい。

 


 このクラスの在籍生徒は、男子8人、女子8人の計16人。

 偶然にも等分だが、家が属する政治派閥や爵位的立場に関しては、若干の偏りが存在する。


 現在国内にある政治派閥は、武力で他国を従えたい『革新派』と平和的話し合いで他国と協定を結びたい『保守派』に分かれているが、このクラスでは3人ほど後者の比率の方が高い。

 因みにセシリアはというと、どちらにも属していない。

 彼女の家は中立で、このクラスではただ一人「どちらにも属していない人間」である。



 じゃぁ爵位的立場に関してはどうなのかというと、『当たり年』なのだろう。


 今この国での爵位保持者の内の「上級貴族」を本家だけで数えると、王族の下に1公爵、3侯爵、12伯爵家となっている。

 そんな中、今年の貴族科一年には2侯爵2伯爵家の子女が在籍している。

 しかもその全てが本家筋の人間だというのだから、豊作なのは間違いない。


 その上なんと、第二王子もこのクラスの中に居る。


(16人中5人。それはすなわち、全体の三分の一が王族ないし上級貴族だという事だ。「リーダーシップを取れる立場の人間がクラスに5人も居る」と思えばやっぱり、この数は異常だろう)


 セシリアは、このクラスをそんな風に評価していた。


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