余暇がやってくる

第71話 メリアは意外と頑固者



 余暇が始まって、4日目になる。

 今日は『私たちの約束の日』だ。


「朝から忙しくさせてごめんね、メリア」


 朝食後の紅茶を飲みつつ忙しく動くメリアを眺めてそう告げると、彼女は真面目な顔で振り返る。


 彼女の手元にはお茶会の準備が為されていた。

 今日は例の濃いメンバーで、お茶会が開催される。


 だからこその、セシリアのこの言葉だった。

 しかしそれに、メリアはいつもの調子で答える。


「いいえ。セシリア様の、ひいてはセシリア様が連れていらっしゃるお客様のお世話をする事。それが私の仕事ですから」

 

 メリアは微塵もニコリとせずに、素っ気ない物言いをした。

 しかしその実、彼女に含むところはない。

 これで平常運転だという事は、身内なら誰もが知っている。


 

 この場所でお茶会がされる事は、最早毎回の決定事項のようになっている。

 外では周りの無駄な注目を浴びるだろうし、他の人の部屋だとやはり変な憶測を買いかねない。

 そういう配慮が理由である。


 が、そうなれば負担がかかるのは客をもてなす者達だ。


「私としては、今回の相手は特に気心が知れた、かけ引きを必要としない相手だから気を張ったり揉んだりする必要が無い分かなり気楽なものだけど、貴女達は大変でしょう?」


 そう。

 使用人たちにとっては、主人の大切な友人たちへのもてなしだ。

 事前準備に力を入れざるを得ない。

 

「ごめんなさいね、メリアのグループの貢献課題の打ち合わせ、もうすぐ始まるっていうのに」


 確か時間は10時から。

 前もってそう聞いている。

 

 時計を見れば、時刻は9時半をちょうど過ぎたところだった。

 そろそろ着替えて向かう準備をせねばならないだろう。


 

 そんな風にセシリアが言うと、彼女は動かしていた手をピタリと止めた。

 準備が終わった――という感じではない。

 カラトリーを準備している彼女に「どうしたのだろう」と視線を向けると、こんな言葉が呟かれる。


「やはり私、今日の課題の打ち合わせは――」

「だめよ」


 彼女が何を言わんとしているのかはすぐに分かった。

 だからセシリアは言い切られる前に止める。


「メリア、貴女が自分の仕事に責任感とプライドを持っている事は良く分かっているけど」

「それだけではありません。楽しみも見出しています」

「……」

 

 説得しようと言い募ったら、メリアにキッパリとそんな事を言い返された。

 見れば、顔に「この点は譲れない」と書かれている。


 楽しく仕事をしてくれいるなら嬉しいし、真面目なメリアがこうして仕事中に個人的な気持ちを言葉にしてくれるのは、それなりにメリアが気を許しているという事でもある。

 その点も嬉しい事ではあるが、頑固というか、何というか。

 依然として無表情でそう言った彼女に、苦笑が思わず口から洩れる。


「うんそうね、楽しんで仕事をしてくれている事も勿論分かっているわ。でもね、私は貴女に可能な限りは学生としてもちゃんと生活をして欲しいのよ? せっかく出来る経験なんだし」


 彼女は今は私の身の回りのアレコレもやってくれるメイドだが、そもそもはパーラーメイド――主人の飲食の準備や配膳、来客対応などを主にするメイドである。

 だからこそ、こういう仕事は特に『自分がすべき仕事』だと思っているんだと思う。


 だけどセシリアとしては、折角ここまでついてきて色々な事を学ぶ機会があるのだから、使用人としての生活だけでは出来ないような経験して学んでほしい。


「貢献課題に従事した経験も、いずれメリアの実になるわ」

「そう、でしょうか」

「まぁ本当にそうできるかは、貴女次第でもあるけれどね」


 しかしセシリアは、メリアがわざわざそちらに時間を費やしてまで何一つ学ぶところを得られない子だとは思っていない。


 この気持ちは口にはしない。

 が、おそらく伝わったのだろう。

 ため息を吐きながら、彼女は「分かりました」と言った。

 少し不服そうなのは、それでもやはり『自分の仕事』が出来ないという現実には不満が残るからなのだろう。



 こうして一通りのテーブルセッティングを終えたメリアは、制服に着替えてセシリアの私室をあとにした。

 そしてそれからやく30分の時間を置いて、例のメンツが集まってくる。


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