第36話 呆れレガシーはそれでも気になる
「セシリア嬢、またやったの」
深い深いため息と共にレガシーからそんな風に言われたのは、例の一件があってからまさかの5日も後の事だった。
「何を今更……っていうか『また』って何ですか、人聞きの悪い」
「仕方がないだろ、僕には情報網ってものが皆無なんだから」
この前から「セシリア嬢、最近特にコソコソされてるな」とは思ってたさ。
そう言った彼はきっと、クラウンから事の次第を聞いたのだろう。
普段は呼びもしないのに取り巻きたちの囲まれているクラウンだけど、そういった所謂『派閥意識の高い系』の者達の視線を上手く巻いて度々レガシーと交流を持っている彼の姿はセシリアもまたに見る。
二人の仲がひどく良好である事は最早疑う余地も無い。
「良かったですね、クラウン様が構ってくださって」
ちょっとからかい口調でセシリアがそう言うと、彼は反撃と言わんばかりにニヤリと笑う。
「そうだね。君は普段から自分のパーソナルなアレコレについては自分から言及しない癖みたいなのがあるけど、君のアレコレは大体決まって、何か大事の中心なんだから」
「何が言いたいんです?」
「君がもっとちゃんと周りに相談なり愚痴なりを漏らしてくれれば、僕たちだって力になれる事があるのにっていう事だよ」
そう言って鼻を鳴らしたレガシーは、どうやら「僕が『今更』になったのは君が原因でもあるんだからね」と言いたいらしい。
多分これは、彼の小さな抗議でもあるんだろう。
が、セシリアにだって言い分はある。
「別に私は今回の件、大事にする気など無かったんです」
「結構な公衆の面前でやらかしたのに?」
「あんな所で始めてしまったのは私ではなくスイ先輩の方ですよ。それにあれはクラウン様の執り成しで、穏便に済んだではないですか」
ため息を吐きつつそう告げたセシリアは、「まぁもしクラウンがあそこで間に入ってくれなければ大惨事だったけど」……とは敢えて言わない事にした。
すると彼は驚いたような顔になる。
「え。僕はてっきりセシリア嬢が、相手を追い詰めるために噂を裏で流してるんだと……」
「していませんよ、そんな面倒くさい」
正直言って、確かに彼女はかなりきわどい事をしてくれたとは思う。
しかしあの場で勢いはきちんと削ぐ事が出来たし、口論による反撃だってちゃんとした。
その上である。
「幸いにも発端となっている入学式の一件は、あまりに目撃者の人数も多く身分・学科共に幅広かった。余程の偏見と聞く耳の無さが無いような方でなければ真実にたどり着くのも簡単ですもの。私が何かするまでもないですよ」
そんな風に論ずると、彼は苦笑し「強気だなぁ」と言う。
しかしそんな事を言われても、セシリアの中にはスイに言いがかり紛いの暴言を叩きつけられていたあの時点でそういう予測が出来ていた。
だからこそあそこまで理不尽な絡まれ方をしていてもギリギリまで強硬手段に出る事をしなかったという理由もある。
何もしなくても収束するならわざわざ手を掛ける必要もない。
「で?」
「『で?』って何です?」
「昨日スイ・ティンバードが君を探しに来てたじゃないか」
そう尋ねられ、やっとセシリアは思い当たる。
今更彼がこのひと悶着の存在に気付いた理由を。
「もしかしてレガシー様、ソレでクラウン様に『理由に何か心当たりがあるか』って聞いたんですか?」
「……だって、気になるでしょ。普段はわざわざ上級生が教室まで来る事なんて無いんだから」
プイッと顔を横に背けてそう言った彼の明らかな照れ隠しは、もう一層微笑ましくもある。
「で?」
「だから『で?』って何です?」
「呼び出されてどうなったのかっていう話だよ! 君っていつも何かと察しが良いくせにたまにひどく鈍感になるから困るんだけど!」
何なの一体。
そう言われ、セシリアは思わず苦笑しながら「すみません」と言いつつ昨日の事を思い出す。
「とは言って、特に何かがあったって訳じゃないんですよ?」
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