第23話 二人目は、極度の人見知り ★



 護衛のユンがドアを開けると、そこにはクラウンより少し小柄で藍色の髪をした少年が立っていた。


「招かれたんだけど……」

「伺っております。中へどうぞ」


 割とちゃんとした敬語と騎士が貴人に対して取る態度で、ユンが声の主を室内に入れる。


 一応これでも伯爵家の「セシリア側付き試験」をパスした人材だ。

 ちゃんとやろうと思いさえすれば、ちゃんとギリギリ敬語は使える。

 要はやる気の問題で、予め「そうあらねばならない」と思っていないとスイッチが入らず、だからといってメリアの様に常時スイッチを入れておく事やゼルゼンの様に臨機応変かつ瞬時にスイッチを入れる事が苦手……というか出来ないのである。


 だからこうして誰かにお客様対応をしないといけない事があらかじめ分かっていればそれなりの対応が出来るのだが、今日の昼間の様にまさか貴人同士の会話の場で突然話題を振られると思っていないような状況だとボロが出る。


 そういう意味では、ユンはまだまだ修行が足りない。


「――良かった、まだ二人だけ?」


 クラウンと同じように、彼もまた一人だけ執事を伴って入ってきて、空いている席へと腰を掛ける。



 彼が座ったのはセシリアとクラウンの間の席だ。

 彼の第一声に浮かべた安堵の理由にもこの席順選びの理由にも、二人とも大いに心当たりがある。

 

「相変わらずだなぁ、レガシーは」


 そう言って笑ったのはクラウンで、それにレガシーと呼ばれた彼が真顔でこう言い返す。


「え、僕みたいな人間不信の人見知りがまさか君たちの間に座る以外の選択肢なんて、そんなの持ってる筈ないじゃない」

「……いやまぁお前と関わるんなら、確かに必須情報だけど」

「『人間不信』とは言っても、最近は大分マシになったじゃないですか?」


 「常識でしょ?」という顔のレガシー。

 「何故そんなに堂々と?」という顔のクラウン。

 そして「大袈裟な」と言わんばかりのセシリア。


 そんな三者三様が顔を突き合わせ、ここからちょっと三人の仲良しトークを始まっていく。


「何言ってんの、『人間不信』そのものだよ。そんな俺が学校とか……。学校なんて、結局のところ集団行動じゃん! 人ばっかりじゃん! だからそもそも嫌だったんだ学校なんて。しかも『貴族科』だなんてさ……」


 地味に面識ある人間ばっかりでむしろ嫌。

 そんな風に言っている彼に、セシリアは「では」と言う。


「他の科に入れば良かったではないですか。私たち貴族はほぼ無条件で、希望科に入れるんですから」

「何言ってんの、セシリア嬢。俺に『他に頼れる人の居ない人口密集地帯』で授業中ずっと耐えてろと? そんなの無理に決まってんじゃん」

「怖い怖い、真顔過ぎる」


 セシリアの軽口を、レガシーが真顔かつ平坦な声で見事に買い、それをクラウンが「どうどう……」と沈めにかかった。

 しかしそれでもセシリアは我が道を行く。


「人見知り拗らせまくりだった当時ならば未だしも、『今、授業中の間だけ、ただ座っているだけ』という条件ならば、出来ない事は無いと思いますよ?」

「そんなスパルタ、一限分で干からびるよ。そもそも穴倉で研究に没頭する事がその血筋的に性分な僕にその荒療治は、本当に家に引き込もる可能性がある」


 そう言ったレガシーは想像でもしてしまったのか、言いながらガクガクブルブルと震え出した。

 そんな彼にクラウンが「それ以上はやめてやれ」と口を挟む。


「はー……学校、ホントしんどい。行きたくない」

「まぁ俺もその気持ち、分からなくはないけどな」

「……明日は体調不良かもしれない」

「もしその予言が事実になり替わった日には、きっとお家からお叱りの手紙が届いて今よりもっと面倒で嫌な事になりますよ?」

「それは……嫌」

「……世知辛いな」


 そんな、楽しくなさそうな話題が続くが、これらのネガティブ発言は彼らがそれなりにリラックスできる場でのガス抜きのようなものなので、これはこれで一応和やかな会話ではあるのだろう。



 と、ひとしきり話が落ち着いたところでレガシーが聞いてくる。


「ところで二人とも、僕が来るまでどんな話してたの?」

「あ、そうだった」


 口に出していったのはクラウンだけだが、セシリアも思い切り話が途中だった事を忘れていた。

 まぁそれだけ大して重要ではない話だったという事なのだろうが、それでも思い出してしまったら中途判場にしておくのも気持ちが悪い。


「実は昼休みに食堂でちょっとあったんですが、それを聞きつけたクラウン様が“『また』やった”などというものですから『ひどい』と抗議していた所だったのです」

「え、セシリア嬢、またやったの?」


 セシリアが簡単に先ほどの話を説明すると、彼まで『また』と言ってきた。

 さも「そう思うだろ?」と言いたげなクラウンに、呆れ顔のレガシー。

 そんな二人にセシリアはちょっとここで反論にでる。




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 当該話数の裏話を更新しました。

 https://kakuyomu.jp/works/16816700428159297487/episodes/16816700428802205809


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