第121話 国王陛下の見えない思惑
「面を上げよ」
朗々とそう言われ、セシリアを始めとする面々が顔をゆっくりと上げた。
「久しいな、セシリア嬢」
「ご無沙汰しております、国王陛下」
この謁見は内輪のものだ。
お陰でセシリア達4人と国王以外は宰相と、それからもう一人。
(何故アリティー殿下がここに……)
思わずチラリを彼を見れば、陛下の隣に座るアリティーとばっちり目が合ってしまった。
にっこりと微笑む彼を見れば、きっとどこからかこの話を聞きつけて学校から帰って来たのだろう事は想像に難くない。
思わず苦笑したくなったがどうにか社交の仮面の下に隠して、陛下の言葉に答える。
「例のフリーマーケットとやら、の募集が始まって2週間強になるか」
「はい陛下」
「どうだ? 準備は順調か?」
「陛下のご厚意もあって、トラブルも想定の範囲内に収まっております」
「そうか。各種段取りや問題点の提示など、抜かりなくされるのであろうな?」
「はい、最大限努力します」
「では楽しみにしていよう」
比較的形式的な問答から始まって、スラスラとやり取りが為されていく。
しかし彼が話したいのは、こんな事では無い筈だ。
でなければ、こんな所にわざわざ呼びつけたりしないだろう。
「そういえば受付開始当初には、街の出店窓口で何かトラブルがあったと聞いているが」
その言葉に、セシリアは密かに「なるほど」と独り言ちる。
『受付開始当初の街の出店窓口』で思い浮かぶのは、ヴォルド公爵家の子飼いの商会が一悶着起こしてくれた件くらいだ。
が、なにも自発的に情報を仕入れようとせずにたまたま陛下の耳に入る程の何かがあの場で起こった訳ではない。
(もしかしたら革新派が陛下に出店条件の緩和を打診してきた、とか?)
しかしそんな要求に、彼が手を貸す理由がよく分からない。
世論を気にするこの国王陛下の事だ、上手く転がせば幾らでも操り様があるだけに、宰相に言いくるめられたのならば分からなくも無いのだが、彼は『保守派』陣営だ。
自陣の不利になるような事をざわざわ後押しする意味は無いだろう。
(だとすると、どこかに密偵でもつけているのか)
たとしたらこの件に関する王城の注目度の高さが窺えるが、必ずしもそれがいい方向に向いたものだとは言い切れない。
少なくとも、彼らとセシリアの間には二年前の因縁がまだ存在している。
それを考えればあまり好意的に見られないのは、自明の理というヤツだろう。
「はい、少しだけ。しかし偶然居合わせた私ごときでも、十分に対処可能な事態でした」
ほんの少しの逡巡の後、セシリアはこの件をサラリと流す選択をした。
すると「ふむ、そうか……」という声が返る。
何か考えている雰囲気があるが敢えてあちらの出方を見れば、やがて彼はこう聞いてきた。
「お前たちには、こちらの人選ミスのせいで少なからず迷惑をかけたであろうからな。出来る限りこちらも協力するつもりでいる」
それはもしかして、最初の打ち合わせの時に出てきたあの残念な担当者の事だろうか。
セシリアは密かに、彼が先日地方に左遷されたという情報を掴んでいたりするのだが、それ程までに相手を許すまじと思っているのか元々素行不良者だった彼を飛ばす口実に使われてしまったのかは微妙なところだと聞いている。
もしやセシリア達の事を結果的に踏み絵のように使った事に負い目でも感じているのだろうか。
――否、何だかどうにもしっくり来ない。
「何か困っている事があれば、最大限の助力をするが」
国王陛下のこの言葉の裏を読みたくなってしまうのは、セシリアの
しかし裏を察知出来た所で、アチラの思惑が読めなければ意味はない。
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