課題における最大の障害は
第51話 道すがらした、彼との話
『貢献課題』についての話し合い、3回目。
今日もセシリアは最初に指定されたあの空き教室へと向かうべく、渡り廊下を一人歩いていたところだった。
陽光が差し込むその外廊下は、昼下がりという事もあり暖かくて気持ちがいい。
となればそこを歩くセシリアの気持ちも上向きになりそうなものなのだが、実際にはそうはならない。
(部屋に到着したとしても決して顔には出す事はないけれど、3回目の今日も決まらないとなれば流石に厳しくなってくる)
先程食堂でテレーサと話していた通り、これ以上の遅れはスケジュール的に困った事になるだろう。
となれば、今日の話し合いで『みんなが納得する形で、互いにWinWinになる様な課題を決める』必要がある。
が、その為に2回目を敢えて捨てたのだ。
その種を、今日芽吹かせればそう難しい事ではない。
そんな風に思いながら廊下を曲がった時だった。
「おっと!」
出会い頭に誰かとぶつかりそうになる。
見上げた先には、セシリアよりもずっと背の高い男が立っていた。
年はおそらく20過ぎ。
どう見ても生徒にしては年を取り過ぎているが、着ているのは確かに紫色の制服だ。
私は彼を、知っている。
「すっ、すみません、セシリア様!」
「大丈夫ですよ、ランディーさん」
彼の名は『貢献課題』の1回目の打ち合わせ時に聞いて知っている。
大人の背丈、大人の風貌、無精ひげを生やした官吏科同学年の一生徒。
それが彼の正体だ。
そんな彼に「問題ない」と伝えると、何故か苦笑されてしまう。
「私のような年増の平民風情に『さん』呼びなんて止めてくださいよ」
その物言いは、まるで「そんな呼び方をされる価値など自分には無い」と言っているかのようだった。
しかしそれでも、セシリアは彼を『さん』付けで呼ぶ事を止めない。
「ランディーさん、目的地はどうやら同じようですし、宜しければご一緒させていただけませんか?」
「……私がお供をしてしまっても良いんですか?」
「ちょうど貴方と話したいと思っていたので」
セシリアがそう答えると彼は少し戸惑ったような声で「じゃ、じゃぁそこまでご一緒に……」と了承を返してくれる。
「ありがとうございます、じゃぁ行きましょう」
そう言ってセシリアが歩き出せば、彼は斜め後ろについてくるようにして一緒に歩きだした。
そんな彼に、セシリアは内心でため息を吐く。
さっきもそうだった。
さっきからずっと、否、1回目の時からずっと、彼の言動全てが暗に「自分なんか」「自分程度」と言っているように見える。
「ランディーさんは、何故そこまでご自分に自信が無いのですか?」
「……だって、こんな年食っただけのオッサンが子供に混じって勉強なんて」
諦め交じりに笑っている。
入学してから今までの短い間で、きっと年の事や知識の差などのせいでバカにでもされてきたのだろう。
が、それが一体何だというのか。
「それの一体どこに恥じるところがあるというのです? 私はむしろ『スゴイな』と思いますが」
「……え?」
私の声に、彼は驚いた顔でセシリアを見る。
が、それでもセシリアは平然とこう言った。
「だってそうでしょう? この学校に入るためには入学金が必要です。一般の平民には少し高い金額でしょう。それを工面するためには、地道に貯めるか貴族の目に留まって援助してもらうしかない」
どちらにしても、それには努力が付きまとう。
「他の生徒と年齢がある事なんて、入学前から分かっていた事でしょう? それでも貴方は、夢の為にここに入った。そうまでして叶えたい事があったのでしょう? そういう貴方の努力を、勇気を、心意気を、私は凄いと思います」
そこだけは、誰が何と言ったとしても彼自身が誇っていい筈の所だ。
それでももし、彼に足りない所があるとするのなら。
「貴方に足りないのは自分を認めてあげる事と、更に一歩を踏み出す勇気。それさえあればもっとあなたは自分の価値を示す事が出来るのに、と思います」
セシリアは静かにそう言った。
彼はソレに、少し驚いたような顔をしただけだった。
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