受付開始、それぞれの仕事を胸に
第101話 余暇が明けて出回る噂
余暇が明けた。
生徒たちはみな、休みにあったお土産話と再開した授業への愚痴に花を咲かせる。
それが例年の空気感なのだが、今年は少し様子が違う。
「ねぇ聞いた?」
「うん、アレよね? 噂だった、例のグループの貢献課題。ついに何か始めたらしいけど……『不要品を寄付すれば、その量によって割引券をくれる』っていう」
そんな話題を廊下を歩いている時に聞いたメリアは、密かにその口角を上げた。
メリアを始めとした側仕えたちに、セシリアが自分のチームの貢献課題について何かを明示的に言う事は一度もなかった。
しかしそれでも漏れ聞こえた呟きや余暇中の過ごし方を見ていれば、大体どのような事を計画・遂行しているのかくらいは分かる。
たとえそれが分かっても、メリアは何も口出ししないし、何なら知らないふりだってする。
だって『必要とされている時にだけ必要な事をする』、それが使用人というものだと、教育されているからだ。
でも本当は、真面目顔の裏に叫びたい気持ちを隔している。
(ほら見ろ私のご主人様は、とってもとってもとっても凄い!)
と。
「ねぇ知ってた? 貢献課題って、たまに画期的なやり方がされるって。前にあったのは3年前と……」
「5年前。余暇前に近況を書いて4つ上の兄に手紙を送ったら、『俺の前の年にそういうのがあって、次の年に課題をしないといけない俺達にとってはかなりのプレッシャーものだった』ってさ」
「へぇ。それでそのお兄さんたちは結局何を?」
「貧民街の炊き出し」
「例年通りじゃん」
真面目顔の下に物知り顔を隠しつつ、心の中で「因みにその前に似たような事があったのは、十数年前の事だ」と呟く。
が、まぁそれは置いておいて、そんな話をしながら笑う彼女達を見ていれば、そういう人たちの事を「凄いな」とは思っても「よし俺達も」という風には思えないらしいと如実に分かる。
きっとそれこそが、『為せる人』と『為せない人』の違いなのだろう。
能力以前の話なのだ。
「ところでさ、不要品。受付は放課後だよね?」
「うん。たしか貢献課題で割り当てられた空き教室でやってるって」
そんな話を続ける彼女たちの横をすり抜け、メリアは少し足を速めた。
向かうは貴族科の教室。
主人・セシリアの授業が終わる前に、教室外に待機しておく。
そんな学校における使用人の日課は最早何の苦も無くなった。
貴族科の授業は他よりも10分遅く終わる。
それだけの時間があれば歩いても十分間に合う事は分かっているが、それでも思わず速足気味になってしまうのは純然たる私情である。
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