第103話 作戦会議

第103話 作戦会議


「ダメです! コウタさん。

 一人だけで出発して大穴を探るとか、そんな勝手なことしようとするなんて、チームリーダー失格と言わせてもらいます」

 しのぶが、今までにない激しさで叫んだ。


「そうよ! あんた一人でなんて行かせないんだから」

 沙織は、歯噛はがみするように言った。

 これは怒ってるな。それとも?


「しのぶ、沙織、キャシーの昇格手続きに同行したんじゃないのか」

 俺は、怒りを鎮めるべく話題転換を図った。


「あんたの様子が変だったから、途中で戻って来たのよ」

 きつい視線とは裏腹に、唇がわなわなと震えている。


「私もなんとなく変だと。

 でも姉さんから言われなければ、分からなかったかも」

 しのぶはさっきとは対照的に、終わりの方は聞き取れないほどだ。


「しのぶ、人の心を勝手に読むのは禁止事項だろ!」

 心を読まれれば主導権は奪われる。

 二人の命の危険を考慮するなら、俺はどうしても主導権を回復させなければならない。


「何言ってるのよ。あんたこそ重大な禁止事項違反よ。

 しのぶには、コウタの考えを読んでって私が頼んだの。

 責めるなら私を責めて」


 確かに沙織の言う通りだ。

 沙織は読心術の使い時をよく押さえているし、俺よりリーダー向きなのかも知れない。

 反論する余地はなく、俺の声が小さくなる。


「そうか、俺、そんなに変だったか」


「あんたは慎重な癖に、そうやって時々無茶をするのよ」


 沙織の目がうるんでるように見えるのは気のせいかな。

 とにかく、沙織は俺のことをよく分かってくれているらしい。


「私も驚きました。

 このチームはお互いの信頼関係で成り立っていたと思ってたのに。

 ひどく裏切られた気分です」

 しのぶの声に落ち着きが戻ってきた。


 俺がうつむいていると、しのぶがさとす感じで話し始める。


「もう一度、信頼関係を作り直しましょう。

 あの大穴の調査と、魔物の森のヌシとの対決、あるいはかわし方に関する作戦なら、チーム全員で考えて、練り上げて、プランAとプランBを検討しましょう。

 それで足りないならプランCも。

 一緒に考えれば、きっと良い考えが浮かびますよ」


 しのぶもリーダーに向いている。

 というか、このチームは時に誰もがリーダーであり、時に誰もが良きプレイヤーだ。

 俺が常にリーダーシップを取る必要はないのだ。

 これこそ理想的で柔軟な組織だろう。

 それも3人という少数精鋭のチームだからこそなしえることだろうが。


「そうね、そうよ。コウタ、一緒に考えようよ。

 難しいことは今までコウタに丸投げしてきたけど、これでも川北高校第2学年、実質二位の頭脳よ。

 そしてあんたは、」


 沙織は腰に手を当て、残る右手で俺を指差した。

 十八番おはこのポーズ。敵を糾弾する時は相手を縮み上がらせる威力があり、味方にすれば怖いもの無し…とまでは行かないが、安心を誘う良いポーズだ。


「そうか、俺は実質一位の頭脳ってことになるのか」

 指差しポーズに俺はそう答えた。

 沙織が要求する答え、これで合ってるよな。


「調子に乗らない。

 元気づけようとして言っただけだから。私が学年二位のわけないじゃん」


 スポーツと武道は自信あり気だが、勉強は付け焼き刃だから裏打ちされた自信にはまだほど遠いようだ。


 しのぶが肩を落とした。

「姉さん、折角良い調子になってきたのに、そこで卑下ひげしてどうするんですか」


「ひげってなによ。しのぶ」


「ええ、そんなんじゃ折角上がった士気が台無しですぅ」


 しのぶの肩がいっそう下がった。

 俺は愉快な気分になってきた。


「沙織らしくていいじゃないか。

 俺、落ち込みかけてたけど、なんかこう調子が良くなってきたかも」


「そうぉ? 私のお陰ね」


「そ、そうですね、多分」

 しのぶが弱々しく同意する。


「そこで、多分とか言わないの! 士気が下がるじゃないの」


 俺たちは作戦会議をすることにした。

 さっきまで俺が一人で考えて検討してきたことも、会議を進める前に三人で共有した。


「大穴に一人で入るのは危険ですけど、二人または三人なら陽動作戦が取れるので、危険度は減るかと思います」

 しのぶが、大穴の調査につき意見を表明。


「そうね。大穴に入る時は服を脱いで、特製スーツの性能を活かしましょうよ。

 何と言っても、スーツの正式名称は、」

 俺としのぶに答えを求めるように、沙織はそこで切った。

 沙織なりにチームワークを考えてのことだろう。


「「エターナル特製光学迷彩ファイティングスーツ!」」


 俺としのぶがハモった。


 そうだった。光学迷彩だ。

 透明、不可視ふかしと言い換えても良い。

 この本来の性能を活かせば、三人で大穴に入る陽動作戦は機能する筈だ。


「俺たち三人が不可視の状態で入り、洞窟の外でデーブとキャシーが陽動してくれれば、不可視の俺たちがヌシに気付かれる可能性は極めて低いだろう」

 自分の言葉に自信が滲んできた。

 

「連携の段取りを決めておきましょう。

 通信を使えば状況に応じて作戦の変更もできるし、うまく連携できると思いますよ」と、しのぶ。


「時々私が不可視を解いて、ライトセーバーで攻撃するのも良いんじゃない」

 沙織が調子に乗ってきた。


「それは急場しのぎの時以外はやめとけ。恐らくヌシの体表面しか斬れないと思うし」


「それは、コウタから見た感覚だよね。

 私が感じる手応えでは、マモタラの胴体だって一刀両断できると思うよ。

 あの時は気絶したけど。

 だからヌシに深手を負わせるくらいならできる。うん、きっとできる」


 自己暗示か、おい。むしろ不安になるが、やる気だけは買える。でもここは少しいさめておこう。


「沙織の感覚は大事だと思うが、万一の時以外は攻撃しないでくれ。

 極力戦闘は避けるべきだ」


「そうですよ、姉さん」


「とにかく、陽動の連携で隙をついて俺が大穴の奥まで一気に進み、戻ってくるからさ」


「それで、どうなるの」と、沙織。


「ああ、あのパーチンの洞窟の時と同じように、特製スーツにレーザー測定させて3D表示させれば、」

 しのぶの言葉に、沙織もピンときたようだ。

「大穴の中に分岐があったら、どこだか明瞭に分かるわね」


「それだけじゃなくて、武具などの大きめの物なら、レーザーで測定される可能性が高いと思うぜ」

 俺は、デーブたちの目的にもかなう、この作戦は一石二鳥だと思った。

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