第123話 ウルデスとの対話1

 愈々いよいよ、ロクシーの追い出し攻撃と、沙織の待ち伏せ居合い斬りいあいぎり?で、2頭目のウルデスとの山場となる決闘シーンが近づいた。

 そう思った瞬間に、しのぶから強い波動のテレパシーが俺に入って来た。

 頭が割れそうな振動を感じる。


「ウルデスへの攻撃は少し待って!」


「いや、しのぶこそ少し待て、テレパシーの波動が強すぎて、頭が痛い。

 なんでスーツの通信を使わない」

 俺はそれだけをどうにか言った。


「あ、ごめんなさい。

 ロクシーさんにも攻撃中止を伝えたかったもんだから」


 そう聞いて、隣のロクシーを振り返ると、中空に出来上がってた筈のストーンバレットが、地面にバラバラと落ちて行った。

 ロクシー自身は、杖を置き、両手で側頭部を押さえている。


「何なの、急に頭が痛くなって、集中力切れたわ。

 しのぶのテレパシーのせいなの」

 ロクシーは当てていた手を離した。

 どうやら一瞬だけの痛みだったようで、既に回復したらしい。

 かくいう俺も、すぐに痛みは引いていた。


「聞こえただろ、テレパシーの出力が強すぎる」


「ごめんなさない、少しあせってしまって。

 通信で伝えるから、ロクシーさんにはコウタさんから話して下さい」

 いかにもすまなそうな言葉が、しのぶから返って来た。


「しのぶ、あんたすごい出力のテレパシー使ったわね。

 大丈夫なの、しのぶは」

 頭痛には触れてない所を見ると、沙織には既に耐性があるのか、むしろしのぶの心配をしているのだ。


「あ、急にお腹が空いてきたけど、大丈夫。

 この後は通信で話すから」

 脳波の大出力は、エネルギー消費が激しいらしい。


「それで、攻撃中止要請の理由はなんだったんだい、しのぶ」

 俺はそう質問した。

 この時点で、俺には全く状況が読めていない。


「今、ウルデスからテレパシーで呼びかけられたんです。

 その時点で大体の意味は分かったんですが、スーツが脳波解析して、翻訳してくれました。

 彼はこの国の言語を使って、私達に呼び掛けました」


 俺は、しのぶの言うことを聞いて、二重の意味で驚いた。

 先ず、狼の化け物みたいなヤツが、言語をあやつることができること。

 しかも、それをテレパシーで伝えてきたこと。

 3つ目は、特殊スーツが、脳波の解析までできて、テレパシーで受けたこの国の言語を、日本語に翻訳した能力についてだ、あ、あれ、二重じゃなくて、三重かw

 ああ、だから、先読み翻訳ができて、タイムラグがほとんど生じないのか。

 俺は、結局、ウルデスの能力よりも、エターナルの超高度技術に一番驚いていたのだ。


「何だって!

 そんなすげえことがあったのか。

 で、ウルデスは何と言ってるんだ」

 しのぶには、ウルデスの能力がすげえと言ってるようにしか聞こえないだろうが、今はそれで十分だ。


「自分の連れが拘束されたことも知っている。

 こちらで保護しているハンター二人と交換で、連れの拘束を解いて欲しいとのことです」


 ハンター二人を保護しているだって?

 知らない奴の安全には、全くと言っていいくらいに興味が無かったが、一応リーダーらしく振る舞わなくてはならないか・・・

 それにだ、あっちの糸だるまとも、テレパシーで通信しているのか、それなら連携がうまい訳だな。


「テレパシーとは言え、ウルデスが言語を操って、俺たちと人質交換の提案をして来たっていうことか」

 俺は要点をまとめて、しのぶに確認した。


「そういうことです。

 どうします。

 私としては、ヒトと同じレベルの高度な知的生命体である、ウルデスと対話してみたいと思ってますが、コウタさんはどう思いますか」


 それだけじゃないだろう。

 しのぶは、テレパシーの使える仲間?と、今日初めて出会ったのかも知れない。

 その相手を失いたくない、というのも大きな理由だろう。


「その前に、キャシーの様子はどうだ」

 瞬時に色々考えたが、俺は別のことを訊いた。


「キャシーは完全に回復して、今隣で休息中です」


 あの深手の傷を短時間で回復させるとは、すげえ魔法だ。

 キャシー、助かって良かったな。


「それなら良いだろう。

 ロクシーは俺から説得する。

 任せろ、しのぶ」


「よろしくお願いします」


「またおもしろくなってきたわね」

 沙織がそんなことを通信して来た。

 こいつはやはりバトルもスリルもびっくり展開も全て楽しんでいる。


「ロクシー、もう頭痛は大丈夫か」

 俺はすぐ隣のロクシーの様子を見て、確認する必要のない質問をした。


「もう何ともないけど、しのぶのテレパシーすごいわね」

 ロクシーは、既に知ってる筈の、しのぶのテレパシー能力に改めて感心している。


 人の脳に痛みを発生させる力まで秘めていたとはな。

 ウルデスの威嚇いかく咆哮ほうこうに匹敵するんじゃないか、その威力はw


「キャシーの治療は終わって、無事だそうだ。

 完全回復して、今は休息中らしい」


「そうなの、良かったわ。

 もう少し傷が深かったらやばいって思ってたのよ」

 ロクシーが安心した感じが伝わって来た。

 キャシーは無二の親友らしいからな。


「それでな、このバトルを中断して、ウルデスと交渉しようかと思ってるんだが」

 ロクシーの復讐心を弱めてから、俺は話を切り出した。


「え、どういうこと」

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