第124話 ウルデスとの対話2

「ウルデスもテレパシーを使えるらしい」


「え、そ、それ、すごいわね。

 私達とアイツが会話ができるって言うことなの」


 ロクシーはまるで理解が追い付かないというくらいに驚いた。

 確かに、それはすごいことだというよりか、とんでもないことだった。


「テレパシーで、この国の言語を使って、俺たちに呼び掛けたらしい。

 しのぶだけが、その呼び掛けに気づいたってことかな」


 しのぶがテレパシーを使えることだけでもびっくりなのに、この異世界において、人でもない魔物がテレパシーを使えるなんて、しかも人の言語を理解するだけじゃなくて、自ら人の言語を使って、コミュニケーションを取ろうとするなんて、訳が分からないほどにとんでもないことなのだ。


 それを一瞬で受け入れたような言葉が、ロクシーから発せられた。


「なるほどね、で、これからどうなるの」


「何でも、ハンター二人を保護しているから、それと交換に、自分の相棒の拘束を解いて欲しいと言ってるようだ」


 俺の言葉を聞いて、ロクシーは難しい顔をした。

 ロクシーも俺と同じように、見知らぬハンターの命など関心がない、そう俺は受け止めた。


「また、あんなのが二頭相手になったら、やばいんじゃないの」


「拘束を解く前に、条件を話し合ってみたいんだが、ロクシーはどう思う」


「なんか、この展開について行けないから、あんたらに任せるわ」


 脱力した答えが返って来た。

 やっぱり一瞬で、ロクシーがこの状況を受け入れた訳ではなかったのだ。

 訳分からない状況に置いて行かれただけなのだ。

 ともあれ、これで俺はロクシーの一任を取り付けた。

 俺もどこまでやれるか今は分からないが、どうにかこうにか、やれることをやってみるだけさ。


「ありがとう。

 じゃあ、ロクシーは、キャシーのそばに行って様子を見てくれ」


「分かったわ、あとはあんたらに任す」


「さんきゅ」


 ロクシーは後方のキャシーの元に向かった。

 その足取りは少しふらついて見えた。

 俺はその後姿を目で追ってから、しのぶに呼び掛ける。


「しのぶ、今ロクシーの了解は取った。

 ウルデスと交渉した上で、話が分かる奴なら対話してみよう」


「まず、前段の交渉からですね」


「そうだな」


 しのぶの理解が早くて助かる。


「何を伝えますか」


「そうだな、まず、こっちのウルデスに名前があるなら訊いてみてくれ」


 しのぶから、了解の返事はもらったが、その後については今から考えるのだ。

 とにかく、俺には考える時間が必要だ。


 しのぶは俺に聞こえるように、通信回路を保ったまま、テレパシーを使う。

 通信回線を介しても、特殊スーツはテレパシーによる、外国語の会話を翻訳できるのだろうか。

 そこが少し不安だが、なんだかんだ言っても、あのエターナルだからな。


 その不安はすぐに消し飛んだ。

 俺には、しのぶとウルデスのテレパシー会話が、スーツの力でよく理解できた。


 という事は、しのぶは日本語で声に出しながら、テレパシーに乗せて相手に伝える訳だから、

ううん、スーツの能力がいくら高いとは言っても、言語を解析してテレパシーに変換することまではできまい。

 という事は、テレパシーによる会話は、使う言語の種類が違う相手に対しても、内容をやり取りできるということかな。

 相手から発せられるテレパシーの内容もそんな感じで、受け取った内容をしのぶの脳内で考えたことを、スーツが解析してから翻訳するのだろうか。

 ああダメだ、俺の思考能力を超えていて、これ以上考えると、混乱してくるばかりだ。

 ともあれ、相手と意思疎通ができていることは確かであり、仕組みを理解できなくても、結果が出ている訳だから、これで良いのだ。

 俺がバカボンのパパみたいになれば、それで良いのだw



『あなたには、名前がありますか。

 あるなら教えてください。

 相棒さんの名前もよろしく』と、しのぶ。


『ワシの名は、シンだ。

 拘束されているのは、ワシの配偶者で、ナミと言う。

 テレパシーの使えるおまえの名を聞いてもよいか』


『私はしのぶ。

 パーティのリーダーは、コウタよ』


『しのぶ と コウタ、発音はこれで大丈夫か』


『完璧です。

 ちょっと待って、コウタに連絡するから』


 しのぶは、同時通信で、俺が会話を聞けているかどうかまでは、まだ知らないらしい。


『テレパシーを使えるのは、しのぶだけなのか。

 だったら、離れているリーダーとどうやって連絡する』


『それは、テレパシーとは違う、電波通信を使うのよ』


『デンパツウシンとは、聞かない言葉だな』


『説明してる時間はないわ』


『そうだな、待ってるから、コウタと話してくれ』


「コウタさん、あいつの名前は、シン と言うそうです。

 コウタさんが拘束したのは、シンの配偶者で ナミ という名前だそうです」


 実は、通信回線で、二人の会話を理解できたつもりだが、一応確認してみる。

「シンとナミだな。

 ううん、そうだな、

 じゃあ、ナミは離れたところからでも、いつでも好きな時に殺せる状況だと伝えてくれ。

 その上で、しのぶと俺の二人で、ヤツと対峙たいじして交渉する」


「わかりました」


「距離を詰めても決して攻撃するな、こっちにも人質がいる、と、うまく伝えてくれ」


「ええ、任せて下さい」


「うまくやってくれ」


「はい」


 聡明そうめいなしのぶに、任せよう。

 きっと大丈夫だ。



『シン、聞いてますか』


『しのぶ、聞こえている。

 コウタは何と言ってきた』


『ナミの命は、預かっている。

 遠くからでも、通信でいつでも殺せる状態だ。

 そう言ってます』

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