第122話 ウルデスとのバトル3

「聞いてたか、沙織。

 沙織は自分の判断で動いていいぞ、ジェダイに任せる」


「OK、ライトセーバーの力を見せてやるわ。

 スーツに伝えたら、咆哮ほうこうは瞬時にノイズキャンセリングするってさ、しかもそれは地球の技術とは全く違う方法で、発生源に跳ね返すことすらできるらしいわ。

 咆哮攻撃が楽しみ」


 跳ね返すことまでできるとは、俺のマイスーツは教えてくれなかったが、確かにそんなことができるなら楽しみだ。


 俺はロクシーに指示する。

「じゃあ、濃霧を発生させてくれ」


「分かったわ」


 ロクシーが杖を突き出すと、途端に辺り一面の空気が湿っぽくなり、少しすると地面が暖かくなり始め、気温も一旦は上がったが、次いで気温がすっと下がると、地面や草から湯気ゆげのように白いもやが発生し始める。

 対峙たいじする灰色の大きなかたまりが、徐々に肉眼では視認できなくなり、サーモグラフィーにより、熱源が高い部分が赤と黄色に染め上げられ、周辺が緑と青色で輪郭りんかくを描き始めた。

 既に靄は白い霧となり、肉眼では1m先のものしか見えない程の濃霧が、遠くまで立ち込めていた。


 ロクシーの霧は、俺の煙幕弾と違って、少し範囲が広過ぎる。

 これでは後方の視界もふさがれて、ヤツはここから逃げることもできないだろう。

 暫くは木の陰で、この霧が収まるのをじっと待つしかないだろうと考えた。

 と、思った矢先やさき、ヤツの姿がすっと移動し始め、青っぽい薄い影となった大木の陰に隠れたらしく、俺からは見えなくなった。


「ヤツは俺の方からは、木の陰の死角に入って見えなくなった。

 沙織、お前からはヤツが見えるか」


 俺は再び、沙織にメッセージを送った。

 返事はすぐ来た。


「うん、大木の陰で半分伏せをしてるわ。

 いつでもジャンプできる態勢みたい」


「じゃあ、沙織はそこで見ててくれ、そっち側に追い出すから。

 向こうから接近して間合いに入ったら、ヤツを斬り伏せてくれ」


「了解」



 沙織とのやり取りを終えて、俺はもう一度、ロクシーに話しかける。

「ロクシー、ヤツは前方6m先の大木の裏に身を潜めている」


「へえ、よく見えるのね。

 私の視界はほぼゼロなのに」


 ヤツの本体は俺からは見えないが、この際、そんなことはどうでもいい。


「そこでだ。

 前方7m先にヤツが居ると思って、ストーンバレットを数発、右からカーブさせて狙ってくれないか」


 そんなことができるのか、確信の欠片かけらも無かったが、ロクシーを信じて難しい提案をしてみた。


「全く見えないのに、私にそんなことができるかな」


 言葉とは裏腹に、その口調からは全く不安を感じられなかった。

 ストーンバレットのコントロールには、絶対の自信があるのだろう。


「そうだな、じゃあ距離感の練習をしておくか」


「どうやって」


「二時の方向に、別の大木が7m先に見える。

 まずそこへ、ストーンバレットを撃ち込んでみてくれ。

 その弾着から、俺が距離の修正情報を提供する」


「やってみるわ、二時の方向7Mね」


「うん」


 ロクシーが放ったストーンバレッジは、7M先の大木に弾着したが、威力が弱々しかった。


「届いてはいるが、威力が弱かった。

 距離感が短かったのかも」


「そう、じゃあ威力調整して、今度は少し右から左カーブさせてみるわ」


「よし」


 ロクシーが放ったストーンバレッジは、彼女が言った通りに、スピードが乗った状態で右から左カーブした。

 そしてそのまま、7M先の大木に激しく弾着して、小さな穴を開けた。


「おお、良い感じだ。

 その感じで、次はヤツの位置にカーブで撃ち込んでみようか」


 俺がロクシーに呼び掛けると、間を置かずに、沙織から通信が入って来た。


「コウタ、ヤツは自分の左、こっちから見たら右だけど、そっちから聞こえた遠くの打撃音に耳をピクピクさせていたけど、全く動く気配はないわ。

 どうやら、こっちからも自分が見えてないと思い込んだかも」


 ウルデスの様子が目に浮かぶ。

 今、ヤツは油断してる。

 俺は沙織に返事する。


「それは好都合だな。

 俺達からも自分のことが見えてないと思っているところに、次は正確にストーンバレッジの強力弾が数発、横から襲って来たら、沙織の方向に飛び出すかもしれない。

 見えないから、どこかにぶつかるかも知れないし、どちらにしろ機敏な動きはできないと思う」


「おもしろそうね、こっちは待ち構えて、ヤツの脚の一本くらいは斬り落としてやるわ」


 沙織の興奮する様子が伝わって来た。


「無理だけはするなよ」


「分かったわ」


 沙織との打ち合わせも完了した。

 次はロクシーのコントロールに期待するだけだ。


「ロクシー頼む」

 俺はロクシーの肩に手を当て、目標に正対させて、

「12時方向にヤツが隠れてる大木がある。大木まで6Mでヤツとの距離はさっきの練習通り7Mで調整してくれ」


「分かったわ」


 ロクシーが杖を構えると、ロクシーの左右中空にストーンバレットが形成され始めた。

 さっきよりずっと弾数が多い。

 左右に5発ずつで、全部で10発、大きさもさっきより一回り大きくなっている。


 俺はそれを見て少し不安になった。

 練習の時と、弾数も大きさも違ってるが、こんなに条件を変えて、ぶっつけ本番でうまく行くのかと・・・

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