第121話 ウルデスとのバトル2

 俺が後方のバトルエリアに達した時、倒れている誰かを、しのぶが治療していた。

 俺はしのぶの背中を軽く叩いた。


「前方のウルデスは完全停止した。

 キャシーは大丈夫なのか」


 倒れていたのはキャシーで、まだ意識を回復していない様子だ。

 俺が経緯いきさつを知りたそうな顔をしているように見えたのか、しのぶはキャシーが倒された状況を教えてくれる。


「ウルデスとの間合いを図りながら、キャシーが少しずつ距離を詰めていたら、ウルデスの咆哮ほうこうがキャシーに向けて放たれたの」


 ああ、あれか、後方から響いてきたうなり。


「ああ、さっき俺にも聞こえたな。

 でも、前にいたヤツから咆哮を浴びた時は、キャシーに影響は無かった筈だが。

 だから、耐性があるのかと思った。

 俺はコンマ5,6秒は固まったけどな」


 しのぶは少し考えてから答える。

「指向性が強いのかも知れません。

 私も、1秒弱は身動きできなかったけれど、キャシーは2秒近くも硬直してました。

 その間に、あの大爪に切り裂かれてしまって、さらに追撃を受けるところを、姉さんが斬撃を浴びせたんですが、瞬時に後方にかわされてかすり傷しか負わせられませんでした。

 今は、治療の時間をかせいでもらって、にらみ合いの状態です」


 なるほど、そんなシーンがあったのか。

 しのぶの話す様子から見て、気絶はしてるらしいが、キャシーの容態に心配は無さそうで少し安心した。


「重症なんだよな、回復するのに、後どのくらい掛かりそうだ」


 これが沙織やしのぶの怪我だったら、俺もこれほど冷静ではいられない筈だが、良かった、二人が無事で。


「そうですね、あと一分位で治癒ちゆできそうですが、確信はありません」


 しのぶは、さっきからキャシーの胸に手を当てて、治癒魔法を掛け続けている。

 疲れたりしないのかな、魔法のできない俺にはその辺の感覚がちっとも分からない。


「じゃあ、頼む。

 俺もこっちに加勢する」


「よろしくお願いします」


 俺はしのぶに任せることにして、沙織にメッセージを送る。


「沙織、聞こえるか。

 前方に居たヤツは動きを完封した。

 しのぶが言うには、キャシーの治療にあと1分は必要らしい」


 沙織の幾分か緊張した声が返ってくる。

「分かったわ、ロクシーが隣りにいるから、今聞いた情報は伝える」


「今、そっちのウルデスはどんな感じだ」


「見えない私に警戒してる。

 かわしそこねたら、深手ふかでを負いそうだとさっきの一撃で悟ったみたい」


「接近したら咆哮に気をつけろ。

 どうやら指向性が強いらしいから、まともに浴びせられたら2秒近く硬直させられるらしい」


「さっき、キャシーがやられた時、見たわ。

 だから、今、迂闊うかつに接近できない感じなの」


「特殊スーツに、咆哮の情報を伝えろ。

 恐らく、対処してくれると思う」


「そんな機能まであるの」


 沙織が驚いている。

 俺もこれから同じことをやるつもりだが、そのくらいのことはやってくれると期待している。


「エターナルの技術を信じろ」


「そ、そうね」


 沙織との通信を終えた俺は、後方からロクシーに接近した。


 同時に、沙織がロクシーから離れ、左前方へと移動して行く。

 三人が固まってしまうよりも、見えない沙織の足音が移動して行くことで、ヤツの警戒範囲が広がり、集中力も散漫になるかも知れない。


 沙織が離れて行き不安が増す中、逆に近づいて来た俺の足音に、ロクシーが少しびびったのが分かる。


 俺は安心させようと、静かに声を掛ける。

「沙織に聞いたか」


「聞いたわ。

 キャシーが無事で良かった」


 二人は親友だから、ロクシーからほっとする感じが伝わって来た。


「この後どうする。

 何か考えがあるか」


「霧を発生させたらどうかと思うの。

 そうなったら、あんたらは霧の中でも視界を確保できるの」


 ロクシーは、俺達の国の高度な技術に驚いて、俺たちなら何でもありだと思い込み始めてるようだ。


「サーマルスコープという技術で、熱源が見えるんだ。

 だからヤツのことははっきりと見えるし、木の形も薄く見える」


「じゃあ、こっちが断然有利ね。

 霧を使ってみるわ」


 霧の発生をどうコントロールするのか、俺には分からないから、俺は俺でロクシーの凄さに驚いている。

 気象をどうにかできるってチート過ぎやしないかと。


「そうだな、俺の参加で、奴には見えない敵がこれで三人になった。

 霧無しでも、脅かせば、このまま逃げて行くとは思うが」


 できれば危険なバトルを避けたいという思いで、そう提案したが、ロクシーはとんでもないという顔をした。


「え、折角有利なのに、逃がしちゃうの。

 あのクラスなら、でっかい魔石が期待できるのに」


「ロクシーもかなり好戦的だな」


「というより、経済志向が強いのかもね」


「それって、強欲ごうよくってことかい」


「そうね、欲張りなのは否定できないわ」


 俺は既に、マイスーツと、あの威嚇いかくの咆哮について、対処できるか確認済みだ。

 まあ圧倒的に俺たちが有利になった、この状況だ。

 戦いを継続しても大丈夫だろう。


「じゃあ、やるか。

 霧を発生させたら、ロクシー自身の視界が無くなるかも知れないから、俺が隣で誘導するよ」


 ロクシーは、少し先で対峙するウルデスから目を離さぬまま頷いて肯定した。


 そのウルデスは、見えているのがロクシーと、先程倒したキャシーだけという状況で、ロクシーを見据えながら、一人増えた、見えない敵三人を、音で探索するために、耳を前後左右に揺らしている。

 ヤツも迂闊うかつに動けない状況なのだ。

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