第16話 世紀の極悪人パーチンと、日本チーム

 こいつら、どうしてそこまで、パーチンにこだわるんだ、、、


「パーチンを、らしめて、追い込んで、殺すつもりか。

 もし、そんなことして、

『死の手』

と呼ばれる、核ミサイル自動発射システムが起動したらどうするんだよ」


 俺は、ネットで得た、飛び切りの知識を披露したつもりだったが、、、


「ああ、そんな、とんでもシステムがあるらしいね。

 パーチンが不慮ふりょの死をげたら、核ミサイル装置が起動する。

 そして、それが一旦起動したら、パーチン以外の人の手では止められない。


 ということはだ。

 学習させたAIが、パーチンの死亡に関する情報を入手した時点で、システムを起動させる訳だから、情報入手は、オンラインで通信するということになるね」


 聞けば、そんな気がしてくるが、そんな脆弱ぜいじゃくなシステムなのだろうか。


「そうなのかな。

 詳しいことは、国家秘密になってる筈だから、そんなに、簡単そうに思わない方が良いのでは」


 こいつら、さわらぬ神にたたりなし という言葉を知らないのか。

 というか、こいつらこそ、その『さわらぬ神』そのものかも知れないが。


「オンライン通信が介在するなら、私達はいつでも信号を入手できるし、解除することもできる」


「そんなことが簡単にできるのか。

 でも、重要な通信は、複雑に暗号化されてると思うけど」


 フライは、それでも平然としている。


「まあ、私達なら、起動してからでも、止める方法はいくらでもあるけどね」


「あるのかよ、何でもありだな。

 さすが超高度文明だな。

 じゃあ、やっぱり、追い込んで殺しても良いと考えている訳だね」


 とんでもないプロジェクトだ。

 しかも、逃げられないなんて。

 このプロジェクトも、

『死の手』とそれほど変わらない、危ないシステムだろ。

 俺はまた、プッツンしそうだ。


「殺そうとは考えていないよ。


 ただね、パーチン大統領は、自分勝手な理屈で、友好国だった筈の隣国エクライナを力攻めして、両国合わせて、十万人規模の死者をだしている。


 その張本人は、3人の影武者を使い分け、十万人の命よりも重い、自身の命、その安全の為に地下に潜伏している。


 いわば世紀の極悪人、地球人の敵ナンバーワンだ。

 その上、小心者で腰抜けで臆病者だ。


 これほどまで、いじりがいのあるターゲットは、現在の地球には他にいないだろう。


 そんなパーチンを、痛快なイタズラで凹ませ、懲らしめて、民衆の前で、恥をかかせ、泣きっ面を見させる。


 これは、同胞の地球人さえ、大喜びしそうなプロジェクトじゃないかな」


 確かに、似たようなことを想像したことがある。


 だが、旧約聖書の神たちのように、加減程度かげんていどが分からぬやつらだったらどうしよう。


『ノアの方舟はこぶね』プロジェクトだって、神がやった、地球上のありとあらゆる生命を奪い去る、とんでも大災害で、とんでも大虐殺だいぎゃくさつだからな。

 何だよ、それぞれの種でたった一組のつがいだけを方舟に乗せて、それで助けたことになるのか、旧約の神は。

 神の所業しょぎょうと、悪魔の所業の違いはどこにあるのだろう。


「残虐なことは、しないんだよな」


「そうだよ。エンタテインメントだからね。


 このプロジェクトはもう始まっていて、ヨーロッパ担当チームが、早速、得点を上げている」


 またまた、フライは妙なことを言い出した。


「得点?」


「この短期プロジェクト『パーチンをらしめる為のイタズラ』は、ヨーロッパ担当チームと、日本担当チームで、得点を競うゲームなんだ。


 娯楽担当評議委員3名の、持ち点は各々おのおの10点ずつで、満点が30。


 ヨーロッパチームは先日、

『プリゴジンの乱』を裏から操作そうさ演出して、21点もの高得点を獲得した」


「パーチンの料理人とか、パーチンの私兵と言われる、傭兵ようへい軍団ワグネルをひきいる、あのプリゴジンかよ。

 あいつがパーチンに反旗をひるがえして、モスクワに進軍したのって、おまえらのイタズラだったのかよ」


 ああまたしても、頭痛が、、、


「しかし、反乱は一日で終息した。


 モスクワまで達して、平和的に政権交代でもできていたら、30点満点だな。


 そして、そこでパーチンの盛大な泣きっ面が見れたなら、このプロジェクトは、そこで終了しただろうね。

 それ以上やっても、大しておもしろくなりそうもないから。


 まあ、こっちにもまだチャンスはある。

 早く作戦を開始して、21点のビハインドを、取り返さなきゃいけない」


 ああ、こいら、本当に何でもかんでも、エンタテインメントにしやがって、、、


 俺はフライをたしなめるつもりで、こう言った。


「ラシアが内乱になっていたら、軍人は良いとしても、一般市民にも、多くの犠牲者が出たはずだよ。

 それは、おまえらの許容範囲なのか」


「いや、それはエターナルの平和主義に反するから、大きな減点だ。


 一般市民の犠牲者は、なんとしても避けなければならない。


 だからこそ、ヨーロッパチームは裏工作して、ワグネルの進軍をモスクワ200キロ手前で、中止させる方法を探った。


 バラルーシのレカシェンコ大統領と、ワグネルのプリゴジンとの電話。

 そしてレカシェンコと、パーチンの電話によって、手打ちの条件をり合わせ、どうにかまとめて、引き上げさせたんだよ。


 そのあたり、ヨーロッパ担当は、どんな手口を使ったのかね。感心するよ」


 あの騒動の影に、エターナルがいたとは、もう、この先何があっても、俺はおどろかない自信があるぜ。


「戦争を遊びにしちゃダメでしょ」

 かなり力なく、俺は、そう口にした。


「日本チームは、もっと平和的で、痛快で、笑えるような、オリジナリティの高い、そんなイタズラを考えたいのさ」


 痛快なのだろうか、俺にとっては強い痛みを伴う通風つうふうだぜ。


「誰とそのイタズラを考えるんだよ。

 その日本チームのメンバーって一体誰なんだ」

 あきらめた俺は、そういた。


「このプロジェクトについては、

上級委員のコウタ、

ひらの委員の宮坂しのぶ、

そして、エターナルからは、

私フライと、スパイ2号。

 この4名で日本チームを構成する。


 そのつもりだったが、例の審議委員のゴリ押しがあってな」


「まさか、、、」


宮坂沙織みやさかさおりを加えることになった」


「むり、むり、むり」

 こいつら、

俺をどこまでももてあそびやがって!


「そこは、我慢してもらうしかない。

 もう一つのプロジェクトにもからんで来る話だからな」


 何だよ、まだ何かあるのか。


「なんだよ、それ」


「今の所、そちらに関しては内容を明かせない」


「なんだよ、それ」

 気力が一段と失われていく。


「それしか言えないのか、また思考停止か、コウタ」


 気を取り直して、俺は主張した。

「宮坂は推進委員じゃない。

 だったら、そもそも、チーム構成員としての資格がないだろ」


 フライは、少し考えるフリをする。

 フリだけだろうけどね。


「姉の沙織は、

『私も推進委員にしてよ、でないとエターナルのこと誰かに言っちゃうから』

と、しのぶと私の前でゴネた」


「まさか、沙織まで推進委員に?」


「いや、審査対象にはなったが、審査の結果、彼女は私の予想通りに落ちた。


 ところが、例の審査委員が、委員見習いの肩書を与え、チームに加えろと命令して来た」


 やはり、俺はこの、しょうもない、プロジェクトに強制参加させられた上、

あの宮坂沙織と、チームを組まされることになるようだ、、、

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