第26話 ベットチャンネル

「ウソでしょ、高度文明を誇るエターナルの使者が、捕まえただけで死んだりしないわよね」


 さおりんはフライの方を見る。

 何を考えているのか、フライは黙っている。

 俺から仕掛けたのだから、フライが黙ってるなら好都合だ。


「さおりん

 君が誰に向かって訊いてるのかは知らないが、俺がクモミンに代わって答えてやろうか」


「クモミンに訊いてるんじゃなくて、私はフライに訊いてるんだけど」


 フライは尚も口を開かない。

 そうかい、俺の出方を見てるのかw


「分かったよ、さおりん。

 俺がおせっかいを焼く必要はなさそうだな」


 さおりんは、目に見えてきょどり始める。

 カースト下位と見ている俺に、これ以上何か言われるのはしゃくらしいなw


「フライが答えてくれないなら、幸太君、

あんたでいいわ」

 さおりんはしぶしぶとそう言った。


 妹のしのぶちゃんは、俺たちの様子を静観している。

 中2なのに、高2の姉よりよっぽどしっかりしているな。


 あ、やべぇ、じっくり見ると、この小さな女の子はめっちゃ可愛いことに今更ながら気がついた。

 今まで姉宮あねみやにばかり気が行っていたので、妹宮いもみやをちゃんと見ておきたいと思った俺は、一旦グラスを外した。


 胸はまだ未発達だが、色白で、姉に劣らず目は大きくてまつ毛も長いし、華奢な全体はこわれないようにクリアケースの中にしまっておきたい位だ。

 姉宮のさらさらつやつやのロングヘアも捨てがたいが、しのぶちゃんのややグレイッシュなショートヘアにはゆるいウェーブが掛かっていて、エヴァの綾波レイのイメージが重なった。

 姉宮が太陽なら、妹宮は澄んだ夜に浮かぶ月のような美しさがある。

 これは、まずい、意識すると3個下の女子に魅惑されてしまいそうだ。


「どうしたんですか、幸太さん。

 私の顔にゴミでもついてますか」


「いや、ごめん」

 俺はそれしか言えなかった。

 本来のへたれがばれそうなので、慌ててグラスを掛け直す。

「うん、何でもないよ」

 落ち着いた声が出て自分でも安心したw


「そうなんですか」

 しのぶちゃんは不思議そうな顔で見たが、それ以上は言わなかった。


「な、何よ。

 私を無視して。

 幸太君、あんたで良いから早く答えてよ」


 余裕を取り戻した俺は、頭をぽりぽりとやりながら、面倒くさそうに話し出す。


「クモミンの体は、ハエトリグモの蜘蛛子くもこさんからの借り物だ。

 したがって、その筐体きょうたいの強度は、普通のハエトリグモと同程度だから、乱暴につかんで、押しつぶしたりすれば即死だ。

 だから、さおりんがつかまえようとした動きに、クモミンは死の恐怖を感じた。

 宿主が死ねば、共生関係にあるクモミンも死ぬか、重体に陥る。

 フライの話では、地球人がエターナルに敵対行動をとらない限り、攻撃しないと言う。

 これは裏を返せば、敵対行動をとった地球人には容赦しないし、その3親等以内の血族に関しても安全を保証しないということだ」


 だいぶ話を盛ってみたがw

 さおりんは、さらにおろおろする。


「え、そんな、、、

 フライ、そうなの?」


 今度はフライも口を開いた。


「いや、ケースバイケースだからな、そのような事態になってみないと、何とも言えないな」


 ナイスプレイだ、フライw


「うっかり足を下ろした所に、たまたまクモミンが居て、踏み潰されて死んだとかの場合なら、不可抗力だから報復されることはないよね」


 俺の言葉にフライは目を弱く光らせた。


「そうだな、コウタ、、、」


 さおりんも時折光るフライの目は怖いらしいw


「わ、わかったわよ。

 これからは注意するから、今のはノーカウントでお願いするわ」


 さおりんは、いやそうに頭を下げた。


「分かれば良いんだよ。

 クモミン、今回だけは、さおりんの暴挙未遂ぼうきょみすいを赦してやってほしい」


 俺は、タブレットの画面に戻っていた、クモミンに向かって手を合わせた。

 お願いのポーズだ。


 クモミンは、前足の一つを、良いのよという感じで振って見せる。


「あたしは気にしてないわ、これから気をつけてくれればそれでいいの」


 さおりんは、これでみそぎは済んだという感じで、俺に向き直る。

 立ち直りの早いヤツだ。


「それにしても、幸太君、あんた随分強気になったものね。

 いつもメガネなんて掛けてないのに、それに何か仕掛けがあるんじゃないの。

 ちょっとそれ見せなさいよ」


 さおりんは、俺のメガネにすっと手を伸ばす。

 俺が防ぐより早く、メガネに指がかかる。


「おい、ちょっと待て」

 もう遅かった。

 ネタバレが怖いな、、、


 さおりんは、奪い取ったメガネを点検してから、自分でかけてみる。


「ううん、普通のメガネみたいね、でもレンズには度が入ってないみたいだし、なんでこんなのつけてるのよ」


 偶然なのか、さおりんは、左の指でツルを揺らした。


「あれ、何だろ、何か聞こえる」


『・・・オッズは8倍から4倍に変わりました。

 最終締切は本日24時です・・・』


「何これ、オッズが8倍から4倍に変わったとかなんとか、聞こえたわ」


 俺はピンときて、さおりんに手を伸ばす。

「ちょっと貸してみろ」


 俺はグラスを掛け直して、さおりんのやったように、左側のツルを揺らしてみた。


『・・・オッズがまた変わりました。現在は3倍から2.5倍の間で動いてます。

 尚、最終締切は本日24時です。

 以上、ベットチャンネルがお送りしました・・・』


「クモミン、通信回線が混線してるようだ。

 いますぐ太陽系支部との通信を遮断しろ」


 フライの命令にクモミンが答える。


「あいあいさー、左回線は遮断完了。

 技術開発部が回路図をちょっとミスったのかも」


 クモミンは頭をかいている。


「おい、フライ。

 これはどういうことだ」

 俺は声を押し殺すようにフライに詰め寄る。


 フライはいつも通り、平然としている。

 俺とフライを観察して、クモミンは楽しそうだ。

 ひょっとすると、あの通信混線とかは、最初からクモミンの仕掛けだったのかも知れないな。


「ウチの連中は賭け事が大好きでな。

 本来、結果に影響しそうなことを言ってはならないのだが、やむをえん」


「要点を言ってくれ」

 俺は語気を荒くした。

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