第25話 沙織VSクモミン

「沙織委員見習いよ、そんなに蜘蛛が怖いか。

 クモミンはエターナル側の代表の一人だから、会議から外す訳にはいかん。

 どうしても蜘蛛が無理と言うなら、君をプロジェクトから外すことを検討することになるが、どうする」


 へたり込んでいた沙織が、むくりと立ち上がり、腰に両手を当てて足を開く。

 『かかって来なさい』のポーズだろう。


 グラス越しのコミック沙織は、怖いのに強がっていてめちゃんこ可愛い。

 沙織は、口をもごもごさせてから、フライを指差して宣言する。


「それだけはダメよ。

 パーチンプロジェクトに、私は必要だし、絶対に参加するわ」


 フライは前足で腕組みをする。

「だがな、クモミンにそこまで怯えているようじゃ、まともに話し合いなどできないだろ。

 元々君は、予定外メンバーだし、どうだ、ここでグループ卒業ということでは。

 もちろん、脳の高速化はサービスするからね」


「いやよ、こんなにおもしろそうな企画から、私をけ者にしないでくれる。

 どうしても排除するというなら、その前に日本政府にエターナル星のたくらみをバラすわ。

 それが嫌なら、その提案を引っ込めなさいよね」


 沙織は横目でクモミンの動画をちらちら見ながら、小刻みに体を震わせている。

 余程、蜘蛛が怖いのだろう。そこにはどんなトラウマがw


 フライはしのぶちゃんを見やる。

「あまり手荒なことはしたくないのだが、

沙織の記憶から、エターナル関連の記憶だけ消去する方法を考慮すべきかな。

 しのぶ委員の意見を訊きたいが、妹としては、しのぶはどう思う?」


 しのぶちゃんは、姉の顔を一瞥いちべつしてから答える。

「フライさん、記憶の一部消去は、姉さんの脳に障害を残す可能性がありますか。

 安全が100%保証されるなら、私は、その案に同意します」


 コミック沙織の目がまんまるになる。

 妹の裏切りが信じられないというように。


「100%保証する」とフライ。


「それを聞いて安心しました」


「ちょっと、何言ってるのよ、しのぶ。

 あんた、一体誰の味方なの」

 沙織はかなり慌てている。

 記憶消去という、自分に対する残虐非道行為が、今まさに決定しようとする恐怖を前にして。


 妹のしのぶは落ち着き払っている。

 結構、こいつもえげつないなw


「姉さんの為を思って、同意するのよ。

 圧倒的力量差のある相手を、甘く見て挑発してると、しまいには、姉さんの身が危険だと思うから」


 無理して踏ん張って立っていた沙織は、再び腰砕けにしゃがみこんでしまったが、顔だけを俺に向けた。

「何よ、みんなで寄ってたかって。

 そ、そうだ、あんた、仲村幸太君はどう思うの」


 正直、俺はどっちでも良い。可愛いコミック沙織なら居てもいいかなって感じだw


「うん、どうって言われてもなあ。

 これといって意見はないかな」


 いまや沙織の天敵みたいなクモミンが口をはさむ。

「あたしの容姿が障害になってるなんて、不愉快ねえ。

 あたしは怖くないし、気持ち悪くなんてないし、

宮坂沙織、よく見てよね、こんなに可愛いのにぃ」


 女児声につられて、クモミンのアップ画像を、今日初めてしっかりと見つめた宮坂沙織は、画像の上に鎮座する本体のクモにもやっと気がついたようだ。

 彼女は最後の強気を失ってがたがたと震え始めた。


「蜘蛛が女の子の声でしゃべってるぅ!」


「失礼ね、さっきからしゃべってるのに、私だと今やっと気づいたってわけ。

 使えない地球人ね」


 結構同性に対して、口が悪いところがあるんだな、クモミンは。


 しのぶちゃんは、姉の手を引いて立たせると、

しっかりその目で見てという感じで、クモミンの本体を指差した。

「クモミン、あんなに可愛いのに。

 姉さんは、ちゃんと見てないから、勝手に悪く想像しちゃって怖いのよ。

 姉さん、よく聞いて、あの子は他のクモみたいな害虫とは違うのよ、小さなハエトリグモはとっても良い益虫なのよ」


 他のクモが全て害虫みたいな言い方だなw

 とにかく、妹の言葉に従って、漸く沙織はこわごわと小さな本体のハエトリグモを見つめ、下の画面のクモと比べ始めた。


「フライ、僕に提案がある」

 ここで、俺は宮坂沙織に助け舟を出すことにした。


「何だ、言ってみてくれコウタ」と、フライ。


「ユーチューブのハエトリグモチャンネルを、みんなで一緒に鑑賞してみないか。

 どうなるか保証はできないが、宮坂沙織にもハエトリグモの可愛さが分かるかも」


 幾分か元気を取り戻しつつある、宮坂沙織は俺にぶーたれる。(ぶたれるじゃないよw)

「ちょっと、私のことをフルネームで呼ぶのやめてくれる。

 いかにもって、嫌われてる感が出てるんですけど」


「俺も宮坂沙織に、仲村幸太とフルネームで何度も呼ばれているんだけど。

 おまえ自覚がないのか」

 学校とウチでは、俺とお前の立場が逆転したみたいだなw


「わ、悪かったわよ」

 どうやら自覚していたみたいだ。


「それで何と呼んでほしいんだ、宮坂沙織は」

 俺は上から目線で、そう言ってやったw


 宮坂はくやしそうに答える。

「私のことは、沙織さんとか、沙織ちゃんとか、サオリンとか、さおりっちとか、どれでも良いわ」


「その4択なのか、宮坂沙織」


「だから、フルネームはやめてよ。

 もう少し仲良くなれたら、沙織と呼び捨てしても良いから、今は4択で」


 おいおい、俺と仲良くなりたいのか、もしかしてw


「じゃあ、宮坂で」

 そう答えると、姉妹そろって言い返した。


「それ、4択に入ってない!」と、宮坂沙織。


「私も宮坂なんですけど」と、しのぶちゃん。


 しのぶちゃんに、そう言われると、しょうがないか、、、

「じゃあ、、、、さおりんで、、、」

 なんか、自分で言ってて気持ち悪いなw


「それで良いわ。

 私は、仲村幸太君をどう呼べば良いの」


 さおりんは、意外にももう立ち直った様子だ。言葉に力が戻って来たw


「幸太さんか、幸太くんか、仲村さんの3択だな」


「仲村君では」と、さおりん


「3択にないだろ。じゃあ、おまえのことは、やっぱり宮坂沙織のフルネームで呼ぶことにするよ」


「分かったわ、じゃあ幸太君と呼ぶわ」

 ようやく さおりんは負けを認めたようだw


「じゃあ、話は戻るが、ハエトリチャンネルを見よう」

と、俺はフライに言った。


 iPadでユーチューブをプレイして、ハエトリチャンネルを探す。

 クモミンは画面を明け渡して、タブレットの上端で不貞腐れていた。


 いくつか出てきたサムネイル?の中から、ハエトリグモの頭の上に、注射器で水滴を垂らして乗せたらどうなるかってヤツを見ることにした。

 ハエトリグモのキュートな動きを、しばらく注視していたさおりんだったが、怖がるどころか、途中から「可愛い、可愛い」を連発しだした。


 ただの食わず嫌いだったw


 しのぶと一緒になって、ハエトリグモのキュートな動きに対して、きゃっきゃ言い出すから、わかんねえな女子って。


 「あれ、やってみたい。

 スポイトか注射器出してよ、クモミンで試したい」

 さおりんは、すっかり元気になってやがるw


「あたしは、いやなんですけど、絶対に。

 コウタ君助けてよ」

 クモミンは前足をばたばたさせている。


 調子に乗ったさおりんは、クモミン本体にえいとばかりに手を伸ばす。

 もちろん、クモミンはささっとけたが。


 俺はさおりんに言ってやった。

「ストップ、さおりん! 調子に乗りすぎだぜ。

 何か言ったり、何かする前に、一旦相手の立場になって考えてみろよ。

 クモミンは今はハエトリグモの体を借りているが、エターナル星の使者様の一人なんだよ。

 それをうっかりつぶしたりしたら、この地球の運命がどうなるか、分かってるのか!」


 さおりんは、今初めて理解したという感じで、その顔から血の気が引いていた。

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