第33話 沙織の言い訳
ニュースでは、その他にこの事件に関する、イメリカ、エゲレスの見解についても報道されていた。
先ず、パーチンフリーという、ラシア国内の民間組織の名前は、これまでに一度も登場していないこと。
クレムリン大宮殿をスクリーンにして、2時間あまりで3回も動画を流すことは、ラシア高官などの、内部協力者がいなければ不可能であること。
映像と音声を流すための機材、もしくはその破片などの一部も、全く発見されなかったと見られること。
これらのことから、この事件は、実行者、実行方法、真の目的など、現時点では全く不可解であるとしていた。
そして、本事件は、ラシア国民に及ぼす影響も含めて、ラシアプーチン政権の崩壊の始まりかも知れないという言葉で締められた。
ニュースに見入ってしまったので、俺のカップヌードルには、汁が全く残っていなかった。
伸びに伸び切った麺は、とてつもなくまずかった、、、
午後2時過ぎに、宮坂姉妹は連れ立ってウチにやって来た。
沙織の第一声。
「ねえねえ、見た! ニュース。
あれって、しのぶの提案が実行されたってことだよね。
しかも私のアイデアの、プーチンハゲも出てきたし」
沙織は目をきらきらと輝かせ、すげえ興奮していた。熱いなおいw
「ああ、見たよ。
おかげで俺は、どえらくまずいカップヌードルを食う羽目になったけどな」
俺は、クールに返した。
「ニュースとそれには、どんな因果関係があるんですか、幸太さん」
しのぶはいつでも冷静だな、慌てたのは、昨日の告白につながる、暗号の種明かしの時くらいだ。
なにしろ、その後に掛かってきたライン電話でさえ、俺は心おだやかではないのに、しのぶの声はうれしそうではあったが、非常に落ち着いていた。
まだ中2なのに、これだけ沈着冷静に振る舞えるとは、末恐ろしい。
決して敵には回したくないなw
「そうよ、どういうことよ。
あのニュースが気に入らなかったの。
私はプーチンがぼっこぼっこにやられて、めちゃくちゃスカッとしたんですけど」
それに比べて、沙織はどうだ。高2にしては、実に子供っぽい反応じゃないかw
「ニュースに驚いて、カップヌードルにお湯を入れてから、気がついたら10分も経っていた。
それで汁なしヌードルになったんだよ。
もちろん、あの動画は出来が良くて気に入ったよ。ゾレンスキーがカッコよかったしな」
「だよね、だよね。
パーチンの馬鹿野郎と、カッコいいゾレンスキーの対比がなんとも言えなかったよね」
「無理してそんなまずいラーメンを食べずに、カップヌードルを作り直せば良かったのでは」
二人のくいつくところは、このように全然違う。
同じ血なのに、この姉妹は、他人のように性格や考え方が違っていておもしろい。
兄弟の居ない俺には、その相違が興味津々だ。
「あいにく、最後の1個だったんだよ」
俺は、沙織は置いておいて、しのぶに向いて、残念そうに答えた。
「それはお気の毒さま、幸太さん」
しのぶは笑顔を見せてそう言った。
沙織は、俺たちのそんな様子を見て、不思議そうに質問した。
「あら、二人ともいつのまにそんなに仲が良くなったの」
「幸太さんとはライン交換してるからね」
しのぶは、俺に目を向けて、意味ありげにそう答えた。
「そうなの?」
沙織は目を丸くして、俺を見る。
「金曜日からね」
隠すことでもないと思い、短く答えた。
沙織は、悔しそうな顔で言う。
「ずるい、二人だけで。
私ともライン交換しなさいよね」
「あれ、俺は沙織にずっと嫌われていたと思うけどな」
そんな反応は予測してなかったので、思ったままを言った。
「昨日、仲良くなったでしょ私たち」
沙織が不満そうなので、俺はこっちこそ不満があると表明する。
「俺は、おまえのせいで、学校ではお一人様認定されてるんだが、おまえはそんなこと少しも気にしてないんだよな」
沙織ははっとしたようだ。
「あ、あれは違うの」
「何がどう違うんだ。
まあ授業中、おまえを後ろから見ていたのは事実だけど、みんなの前でフルネームで俺を呼んで、晒し者にしなくても良かっただろ」
こんな恨み言を言うつもりはなかったが、違うのという言葉に、俺はつい過剰反応した。
いじめる側は、都合が悪くなると、そんなつもりじゃなかったと言うものだ。
「だから、あれは違うの」
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