第118話 ウルフ族登場

 この魔物の森の出入口は北側にあり、森の最奥部の、岩山を背にする広場は南に位置している。

 森は南北よりも東西に長い形をしており、マイクはマッピングの目的をもって、森を探検したいらしい。

 俺たち3人には関係ない話だが、他のメンバーは、これ以降も生活を掛けて、この森に継続的に入ることになる。

 

 俺たち8人のパーティは、分岐がある度に、右の道を選んで進んでいたから、森の西端方面を攻略しながら南下していることになる。

 三人 プラス マイクの四人で、俺たちがこの森を脱出した時は、分岐を左に行くこともあったが、右を進む方が多かった。

 ということは、森の東側中心に降りてきたことになるから、、その時とは全く違うエリアを探検していることになる。


 単純に考えると、外周部を回ると距離が伸びて、広場まで時間が掛かりそうだが、中心部を通るより魔物との遭遇率そうぐうりつが低くなるので、結果的には早く着くとマイクは言っている。


 道標みちしるべが無い分岐点に差し掛かると、どういう訳か、マイク達ベテラン勢は周辺を探し回り始める。



 これはマイクから聞いた話だが・・・

 ベナンの町の領主と冒険者ギルドは、この魔物の森を、北のダンジョンと同様に、大事な収益源に育て上げたいようだ。

 将来入場料を取る計画もあるらしい。

 その為に町は、街道沿いに高い塀を設置して、森の出入り口を限定しようと考えているらしいが、金の掛かる設備は後回しにして、とりあえず広大な森の中に道標を整備して来た。

 その中でも大事な道標は、森の外周部に近いルートの、東端と西端に当たる分岐点に立てたものだ。

 森の中で道に迷っても、外周部のルートまでたどり着けば、どうにか迷わずに出入り口へと戻ることができるからだ。

 その大事な道標も、魔物が踏み潰したり、蹴飛ばしたりして、始めに設置した時よりも、地中に埋まって見えにくくなったり、周辺に転がっていることも多い。

 冒険者ギルドは、定期的にその保守の為の依頼を出す・・・



 先日もその依頼が掲示板に出ていたので、マイクはマッピングを兼ねて、その依頼を受けて来たらしい。実にちゃっかりというか、しっかりしている。


 分岐点の周辺を探し回って、道標を見つけると、マイク達は、元あったであろう場所に、それを設置し直すのである。


 マイクが西側のルートを取っているためか、以前見た魔物には今のところ出会でくわしていなかったが、次に現れた魔物は、前回見た奴とその仲間が混じっていた。

 あのオーク親子を追い回してた奴だ。



 先程の投槍テストから5分ほど歩いた所で、また道標の見当たらない分岐点に差し掛かり、ベテラン3人が周辺を探し出した。

 今までは近場ですぐに見つかっていたのだが、今回は中々見つからない。

 道標の抜けた穴の角度から、最近魔物に蹴飛ばされたものと判断して、彼らは進行方向左側の東方向を探索しに行った。


 そろそろ俺たちも手伝った方が良いかなと、女子連中と相談を始めた所で、キャシーの耳が左右にぴくぴくと動き出した。


四足動物しそくどうぶつの集団が近付いている。

 東方向からだよ」


「どのくらいの数か分かるか」と、俺。


「10頭以上、この統制された動きは、ウッズウルフかも知れない」

 キャシーはそう答えた。

 音だけで、敵の様子が分かるとは、獣人族、特にネコ系の能力は大したものだ。


「それは少しやばいね」

 ロクシーが警戒度を上げる発言。


「マイクたちを呼び戻さなくては」

 俺は思ったことを口に出した。


 その時は既に遅かった。

 集団の接近とは反対方向から、忍び足で迫る個体があった。

 おそらく、元々その個体が休んでいたエリアに、俺たちが近付いてしまったようだ。


「近くにいる個体は2体。

 それもかなり大きいわ。

 みんな構えて!」


『ワオーーーーン』

 近くにいる個体から、突然大きな遠吠えが放たれた。

 瞬間的に身体が固まった気がした。

 これが遠吠えではなく、威嚇いかくの吠え声だったらどうなるのかと、おびえではないが、不安が込み上げてきた。


『ワウワウワオォン』

 遠くから、呼応するように遠吠えが響いた。


「接近してた集団の足音がばらけた」

 耳を済ませていたキャシーが、そう言った。


「どういうことですか」

 しのぶがそう訊いた。


「近くにいるでかい奴が、指示を出して、それにウッズウルフ達が答えたみたい」


「種類が違うのに連携してるのか」

 俺の不安が増幅した。



 突然、俺たち5人の前に、大木の影から、前に見たウッズウルフの3倍ほどもある巨大な狼が現れた。

 それも2頭だ。


 遠吠えを聞いた筈なのに、マイク達はまだ戻ってこない。

 俺たちから、東方向に居るマイク達に合流しようかと思った矢先、巨大な狼2頭は俺たちを見据えながら、俺たちとマイク達を分断する方向に動いている。


「ウルフデストロイヤーじゃないかしら」

 ロクシーが巨大狼を見ながらそうつぶやく。


「ロクシー、そうよ、こいつウルフデストロイヤーだよ。

 こいつら二頭で上手に連携するから危険だよ」

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