第119話 ウルフデストロイヤーとのバトル開始直前

「この大きさで、連携されたら、かなり難しいバトルになりそうだな。

 動きも今までの奴らより遥かに早そうだし」


 俺のセリフに、ロクシーが反応した。

「飛び道具や魔法攻撃の一撃目をかわされたら、一気に間を詰められるかもしれない」


 確かにその位の速度、機敏性がありそうな相手だ。


「聞こえるわ!」

 どうすべきかと考えていると、キャシーが鋭い声を発した。


「何が!」

 沙織も鋭く聞き返した。


「マイクとデーブの声」


「どんな様子だ」

 さすがに良い耳をしてる、ネコ系のキャシーには聞こえてるのか。

 マイク達が何を叫んでるのか、俺には全く聞こえないが。


「ウッズウルフ達に囲まれたみたいだけど、こっちは任せろって怒鳴ってる」


 なるほど、マイクはキャシーなら聞こえると理解して叫んでるのか、俺は納得した。

 そして、囲まれてるということは・・・


「じゃあ、さっきの遠吠えは、ウルフデストロイヤーからウッズウルフ達へ、マイク達を囲めという指示だったのか」


「そうかも、こいつら2頭で私等5人を相手にして、その最中に挟撃きょうげきされないように、マイク達を分断させたのかも」

 キャシーはそう状況を分析した。

 おそらくその通りなのだろう。


「状況判断に優れた奴らだな」


「マイク達は、10数頭のウッズウルフをやっつけるのにどのくらい時間が掛かるかな」


 沙織がそう訊いた。

 答えたのは、ロクシーだ。


「逃げる個体を追い掛けたりしなければ、5分でかたを付けると思うわ」


 それなら、今は無理しないで、皆で戦う方が良い、そう俺は考えた。


「じゃあ、こいつらを6分間足止めできれば、マイクたちの援軍が望めるってことかな」


「6分も足止めできるかしら。

 一頭だけでも、先に倒した方が良いかも」


 ロクシーの判断は俺とは違っていた。

 だが、どうなんだろう、力の読めない相手を2頭相手にして、戦端せんたんを開いても大丈夫だろうか。


「そりゃ、俺たちでやっつけられれば、それにこしたことはないけど、無理しないでにらみ合いに持ち込めないかな」


「コウタは慎重ね」

 沙織は不敵な笑みをたたえながら、俺に言った。

 いや慎重さは大切だろう。

 モンスター井上尚弥だって、1R目は相手の力を測ることに費やす。それまでは距離を詰めていきなり殴り合ったりはしない筈だ。


「沙織だって、一発目で斬りそこねたら、あの太い前足の鋭い爪でずたずたにされるかも」


 俺の言葉で、沙織に痛みのイメージが湧いたらしい。

「それはいやね」


「軽い傷なら、一瞬で治してあげるわ」

 ロクシーが、しかめ顔の沙織に声を掛けた。

 すると、沙織は笑顔になった。


「私も治せます」

 しのぶも、沙織にそう言った。

 沙織は、自信たっぷりにうんと頷く。


「深い傷を受けたら」

 俺は、ロクシーにそう問い掛けた。


「そうね、1分は必要ね」


 ロクシーは即答したが1分は長いな。

 ロクシー自身もそう思ったようで、顔が曇る。

 その不安みたいなものは、しのぶにも伝染したようで、弱気な声を漏らす。

 沙織の顔を見ると、再び眉間にしわが刻まれている。


「私は2分掛かるかも」


 こんな会話をしてる最中も、2頭のウルフデストロイヤーは、俺たちを挟撃する形で、隙を探してじりじりと動いている。


 少し離れた所に開けた場所があるが、どうやら、そっちへは行かせないぞという感じの動きだった。

 巨体の癖して、大木はじゃまにならないのか、寧ろこの地形を利用する攻撃方法を持っているのだろうか。


 俺たちは陣形を整える。

 前後のウルデスに対して、中央にはしのぶとロクシー、前はキャシー、後衛は沙織、俺はサイドウイングで、両側に自由に動くつもりだ。


「キャシー、こいつらにスリングショットは効かないだろうが」


「分かってる、動きも早いし、体毛も分厚いから使わないよ」


「いや、最後まで聞けよ」


「何よ、コウタ、なんか策があるの」

 キャシーの苛立いらだった声。

 キャシーの持つ攻撃手段のどれもが、この相手に対し通用しないかも、そう思って焦っているのかも知れない。


「効かなくても良いから、マルチショットで当てられるよな」


「当てるだけなら当たるかも」

 抑えてはいるが、俺の言葉に対し、苛立ちはさらにつのっているようで、いやいや答えてる響きだ。


「じゃあ、何発か当ててみてよ。

 当たっても、痛くないなら、恐らく前側の奴は油断するかも」


「それでどうするの」


「気を取られてる所に、煙幕弾を投げつける」


 漸く、キャシーの表情が良くなった。


「ああ、この前見せてくれたヤツね。

 あれなら少しの時間、ウルデスの視界を奪えそうだね」


「ああ、幸い奴らは広い場所に出ないつもりだから、視界さえ奪えば、木の多い場所では機敏には動けないだろう」


 キャシーは俺の言うことを、うんうんと頷きながら、目だけはウルデスを追いながら、黙って聞いている。

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