第85話 スリングショット

 スライムとのバトルの成果は、沙織が欲しがった赤い輝石きせきが一つ。

 市場価値が殆どないらしい、緑と青の輝石約20個は、キャシーが石礫いしつぶて代わりに使うらしい。


 殆ど丸い粒なので、何か他の活用法がないだろうか、手で投げつけるだけじゃ、大した打撃力にはならんだろうし。

 それで思い出したのが、俺でも使えるのじゃないかと思って、クモミンに注文した武器が、軽量強化スリングショットだ。


 4次元ポケットに、スリングショットを出してくれとオーダーすると、ポケットに突っ込んだ手元に、スリングショットらしき感触があった。

 それをキャシーに手渡した。


「どうだ、これを使えば手で投げつけるより、強力だと思うが」


 スリングショットを手にした、キャシーは、手に持って、その握り心地を試し、ラバーを強く引っ張ってみる。

 どうやら、この世界にも似たようなものがあるらしく、使い方を良く知っているように見えた。


「これ、良いわね、こんなに良いゴムは見たことがない。

 ちょっと試してみて良い」


 少し数が多い方の、緑の輝石を弾にして、50mほど先の、黒い縦線にしか見えない分岐口を狙ってみるとのこと。

 一般に地球製のものだと飛距離100m、射程距離20m以下らしいが、キャシーは初射にして見事、分岐口に当てた。

 弾は分岐道内に跳ね返ったらしく、そのまま消えた。


「こんな高性能なの、あたしがもらっても良いの」


「良いよ、あげるよ。

 あ!」


 会話は終わりだ、キャシーが撃った分岐口から、黒くてでかい飛翔体が飛び出して来た!


 出てきたのは、バンパイアバットの巨大版だった。


「まずいな、キングバットよ、あれ」と、キャシー。


 パーティでトップを任せている沙織が、ほぼ腰砕け状態で、背中を壁に張り付けている。

 こいつ、今は当てにできない。


 振り向くと、しのぶがファイアボールを生成し始めている。

 敵を確認したキングバットは、思った以上の速度で飛来する。

 ファイアボールは間に合いそうにない。

 俺はブラックウィドウを構えた。

 瞬間、キャシーが緑の輝石を弾にして、左手を大きく引いて、スリングショットを構えるや、即 発射!


 輝石弾は、運良くか、正確に狙ったのかはともかく、キングバットの左耳に命中したらしい。

 キンバの飛び方が突如乱れた。

 反射音波がうまく拾えなくなったようだ。

 ばたつくキンバに輝石弾が追撃、今度は右耳から血潮が吹き上がった。

  翼長2mもあったキングバットは、羽を畳み、その場で落下して、目をキョロキョロさせている。

 もうそれは、戦意喪失した、ただの黒い塊に過ぎない。

 ラグビーボールより少し大きいだけの見にくい生き物。

 キャシーはとどめとばかり、反動も付けずに、眉間みけんをフットスパイクで串刺しにして、両手を中段に拡げている。(ブルース・リーかよ)


 暫くすると、キングバットはやや大きめの魔石を残して、ちりとなった。


「キャシー、あんた、すごい勇気あるわね。 尊敬するわ」


 呪縛じゅばくから解けたように、背面で取り付いた壁から、沙織がそろりと歩いてくる。


「何言ってるの。

 沙織なら、あんなの一刀両断でしょ。

 見掛け倒しだったよ、あいつ」


「いやいや、あれは、、私にはとても無理だから、、」


 キングバットが、魔素の霧となったあたりを見つめて、沙織は尚も怯えていた。


「翼竜タイタンを倒したくせに、何言ってるのよ。あっちのが数倍強いよ」


「そ、そうなの」


 疑わしそうな口ぶりだ。


「私も、翼竜の方が全然強いと思うよ。

 今回は、相手の接近が早すぎて、私は役立たずだったけど。

 だから、キャシーのおかげで助かりました」


 いやいやと、両手をばたばたさせるキャシー。


「これで、キャシーにも、投げナイフ以外の、遠距離武器ができたってわけだな。

 次もたのむぜ」


「う、うん!」


 キャシーは手に入れた、新しい武器をいとしそうに撫でている。


「ああ そうそう、これも使ってくれ」


 俺がキャシーに渡したのは、ナイロン袋に入った、パチンコ玉サイズの鉄製弾100発だ。


「何これ、銀色できれい。

 え、これを弾にするの、もったいないよ」


 銀弾をつまみながら、宝石でも見るようにしていたキャシーは、信じられないという顔つきになった。


「いやいや、こんなの俺の世界だと100粒で大銅貨1枚位だよ」と、俺。


「そ、そう。じゃあ遠慮なくもらっとくね」


 キャシーはナイロン袋を大事そうに、腰紐に取り付けた。


「でも、俺の見るところ、輝石弾の方が威力があると思うけど、輝石弾は、残り少ないだろうから、普段はこっちを弾に使ってくれ。 追加もあるからさ」


「うん、色々と悪いね」


「で、ところでさ、あのキングバットの、やや大きい魔石っていくらくらいになるんだ」


 下世話な話だが、重要だw


「わからないけど、多分銀貨2枚位にはなるんじゃないかな」


 銀貨2枚は、4千円くらいか、まあまあか、もう少し高いと思ったんだが。



「あたし、おしっこしたくなった」


 突然、キャシーがそんなことを言い出した。


「じゃあ、そこの分岐口の中でしたら、私が見張っててあげるから」と、沙織。


「沙織やしのぶは平気なの」


「私たち、特殊スーツに処理装置が組み込まれてるから、小の方は大丈夫なの」と、しのぶ。


「あ、俺もしたくなった」


 誰かがトイレと言うと、周囲の者もつられてもよおしてくるものらしい。


「コウタ、カテーテル使ってないの」と、沙織。


「男性用は、装着時に痛みがあるんだってさ。だからやめておいた」


「じゃあ、コウタはあっちの分岐で一人で用足しして来て」


 沙織は冷たい。かなり冷たい、、、


「奥から魔物が出てきたらどうすんだよ、誰か、終わるまでガードしてくれよ」


「え、いやよ」


 即座に沙織の返答があった。



「じゃあ、私が終わってから、コウタをガードするよ」


 キャシーが助け舟を出してくれた。



「え、だめですよ」


 どういうわけか、しのぶが反対する。

 何故そんな意地悪を言うの! 義妹よ。


「じゃあどうすりゃ良いんだよ」


「コウタは、メイン通路でやんなさいよ、私たち後ろ向いてるからね」


 沙織が小さな子供を見るように、そんなつれないことを言う。


 俺は、仕方なく、キャシーが終わった後で、メイン通路の壁に向けて立ちションした。

 そばに異性がいるのに、おしっこの音が長々と響いたのには往生した。


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