第86話 コボルトとの戦い

 この後も、モンスターラットとキングラットの襲撃が、数回繰り返されたが、キャシー、沙織、しのぶの連携で楽勝に返り討ちにした。



 もう、ダンジョンに潜ってから5時間ほど経っただろうか。

 だいぶ前に30分休憩を取ったが、少し疲れてきた。


「まだ、突き当りの部屋は遠いのか」「ねえ、もうすぐだよね」「歩くの飽きてきました」「もうそろそろだと思うけど、あたしにばかり文句言うのやめてくんない」「文句はつけてないよ、ただ訊いただけだよ」「なんか、刺々とげとげしく聞こえるんだけど」「もう帰ろうか」「帰りたいですぅ」


 俺の発言を切っ掛けに、文句が口々について出始めた。

 おそらく、最後のバトルから1時間ほど、何も出て来なくて、刺激が足りないせいだろう、と俺は分析した。


「ここでもう一度休憩するか」


「「「さんせい」」」


 俺たちは、メイン通路の真ん中で車座くるまざになって、干し肉やお茶などで栄養補給をする。

 前方、後方からの敵に備えるには都合が良い。

 これならお互いの顔も見れて、その後方を同時に警戒することができる。


 15分ほど、そうやって休んでいると、こそり、こそりと足音らしきものが聞こえる、ような気がした。

 キャシーの耳が、互い違いにぴくぴくと動き出す。


「何か聞こえるのか、キャシー」


 キャシーがすっと立ち上がった。

 その手にはスリングショットが。


「これは、コボルトの集団よ、今日一番の強敵かも」


「それって、ゴブリンとは違うのか」


「ゴブリンと似てるけど、一回り小さくて、一人一人は弱いから、必ず20から30以上の集団で活動するの。

 棒とか、槍を使うんだよ。

 身体が小さいから、槍も短いんだけどね」


 そのようにキャシーが説明する内に、50m先の左側分岐から、棍棒を手にした10数匹の集団が出て来た。


 確かに、魔物の森で出会ったゴブリンより小さそうだが、事前に聞いてなければ、大きさの違いはよく分からないほどだ。

 森のゴブリンを85から90cmとすると、眼の前に見える奴らは、75から80cmほどだろうか。それに顔がゴブリンの猿面に比べてやや犬っぽい。


「みんな注意して、あいつらより近い分岐口にもたくさん隠れているみたい。

 私たちが前進すれば、後ろも塞いで挟み撃ちにするつもりかもしれない」


 確かに、前方の集団はその場に留まり、棍棒を振り回して、俺たちを煽っているだけだ。

 しかも、少しずつ後退あとずさっている。

 俺たちを誘い出すつもりなんだろう。


「キャシー、スリングショットで狙えるか」


 俺のブラックウィドウでも、麻酔ニードル弾を使えば、50mは十分射程距離だと思うが、まだ使ったことがない武器を信頼するつもりはない。


 キャシーは、スリングショットの弾込め箇所(以下、チャンバーと言うことにする)に、数発の鉄弾を纏めている。

 そんなんで、ターゲットを正確に狙える筈がないが。

 あ、そうか、相手は団塊だんかいになっているから、数撃かずうちゃ当たるってことか。

 それも部位は別にして、必ず身体のどこかに当たりそうだ。


 にしても、沙織の服脱ぎといい、しのぶの散弾ファイアボールといい、皆、状況に合わせた実戦応用力すげえな。

 俺の生活応用女子力がしょぼく思える。


 ともあれ、キャシーは一編に5,6発の鉄球弾を放った。

 前方のコボルトたちが一斉に、悲鳴とも雄叫びともつかぬ声を発する。

  まるで、猿山で争う猿たちの叫び声のようだ・・・

 とは言え、それは俺が見た現実の記憶なのか、「2001年宇宙の旅」とか、「猿の惑星」で観た記憶なのか、判然とはしないのだが。


 一番後方の奴ら数匹が明らかに浮足立って、この勝負、すでに見えたと思ったのだが・・・


『ウキキキィ!』


 鋭い一声が響き、崩れかけた集団が、即座にまとまりを回復した。

 どうやら、優れたリーダーが統率とうそつしている小隊らしい。


 こちらに近い分岐口に隠れていた連中は、挟み撃ちを諦めたのか、ぞくぞくと最初の集団の前に出て来る。

 後列の一団も素早く、前との隙間を詰めて来た。

 新手あらてたちは各々おのおのやりと金属製と思われる盾を手にしている。

 こいつらは確かに、今までのやつらと違う、訓練された兵士の一団だ。



「みんな、道を開けて!」


 するどい声と共に、しのぶのファイアボールが放たれた。

 前列のコボルトたちが、盾を隙間なく前方に並べ、後方のコボルトたちは、その陰に隠れた。

 ファイアボールは盾に弾かれて軌道を変え、コボルト小隊を超えて後方へと転がっていった。

 それはまるで、スパルタ軍のファランクス密集戦術みたいだった。



 ファイアボールを見事にいなした小隊は、一斉に立ち上がりこちらに向かってダッシュして来る。

 15mほどに近付いた辺りで、先頭のコボルトが一匹、二匹と倒れ、後続の前進にブレーキを掛ける。

 キャシーのスリングショットが、一発ずつ顔面を狙い撃ち。

 その左手には、数多くの鉄球弾が握られていて、次弾のチャンバーへの弾込めが素早く、連射と精密ショットを見事に両立させている。


 7、8匹ほどは、キャシーが倒しただろう。

 しかも、直前に迫った相手に対し、どこでもジャンプから、アイアンクローと、スパイク落としで、あっと言う間に4匹を血祭りに上げて、俺の後方に退いた。

 コボルトが盾を使う暇も与えない、見事な先制攻撃だった。


 代わって先頭に立った沙織は、ライトセーバーの連続斬り!

 コボルトたちが、盾を使って防ごうとするが、ライトセーバーはその盾ごと切り裂いてしまうのだ。

 おそらくは6匹ほど斬り倒しただろう。


 それでも、まだまだ、コボルトは30ほど残っている。

 戦いはこれからだ。


「待ってくれ!」


 なんだ? コボルトたちの方から、人の言葉が発せられたようだが、、、

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